おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「最悪」 奥田英朗

2008年06月14日 | あ行の作家
「最悪」 奥田英朗著 講談社文庫 (08/06/14読了)

 正直、読みながら、「ホントに最悪…」と心のうちで何度となく呟いてしまいました。ジョン・レノンが便秘で苦しむ奇想天外ストーリー「ウランバーナの森」でデビューして、二作目がこれ…ですか。どう考えても、鬱屈している(していた?)としか思えません。

 舞台は川崎。小さな工場を営む川谷、都銀の支店に勤めるみどり、チンピラの和也-なんの接点もなかった3人が、小さなアンラッキーを積み重ねながら、運命の糸に手繰り寄せられて「最悪」への道を歩んでいきます。読者にとって「最悪」なのは、小さなアンラッキーが決して絵空事ではなくて、妙にリアリティがあるということ。町工場の機械音にそこまでやるかというようなイチャモンをつけてくるオバちゃんとか、深刻なセクハラ被害を相談したら、それをライバルを消すための材料に使おうとする上司とか、「ちょっと、いいかも」と思っていた男が親友とホテルに入っていくところを偶然目撃してしまうとか-。

よく、大事件を引き起こした犯人に対して、「そこまで追い詰められる前に、もうちょっと冷静になってさ、誰かに相談するとかできなかったのかな?」「いくら給料安くても、働けば、いくばくかのお金がもらえたのに」なんて思ったりするのですが-でも、もしかしたら、人をとてつもない犯罪に追い詰めるきっかけになるのって、実は、こういう小さな「ちぇっ」と舌打ちしたくなるような出来事の積み重ねなのかもしれません。

 それにしても、何もかもが悪い方へ、悪い方へと転がっていくので、ため息が止まりません。(ただ、最後段は最悪というよりも、ちょっとラリって書いているんじゃないかと思うほど、はちゃめちゃぎみ)。「空中ブランコ」や「マドンナ」と同じ奥田作品というイメージで読むと、完全に裏切られます。元気が無い時に読むと滅入るかもしれません。でも、最後に、ほんのちょっとだけ、空から光が差してくるような場面があって、ホッとできました。

 「最悪」も「邪悪」も、上手いな-とは思います。でも、これで奥田英朗という作家に惚れるのは難しい。やっぱり、奥田英朗の本領が発揮されているのは短編なんだと思います。それとも、「最悪」や「邪悪」という作品を紡ぎ出すという過程を経てこそ、「空中ブランコ」や「マドンナ」を生み出せたのでしょうか?


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