それにはちゃんと理由があった。
彼は私がタクシーに乗る近くのプロトンと言う自動車会社で働いている。退社時刻の5時20分になると駐車場からタクシーを出してきてタクシー運転手に早変わりする。自動車会社がタクシーを奨励しているわけではなくて生活のためにタクシーを運転するようになったのだそうだ。そのため、こちらがタクシーを呼ぶ時刻に近くにいる火野正平が無線で呼び出されると言うわけだ。
火野正平は早朝5時か6時にはタクシーを走らせる。出勤時刻まで走らせてから間に合うように自動車工場へ。自動車工場で1日仕事をした後にすぐまたタクシーを運転して夜9時か10時に家に帰る。休日は日曜日の昼間、家族を連れてKLに食事に行く。日曜日だから全日休みをとるのかと思ったらその夜もずっとタクシーに乗るそうだ。身体はさすがに疲れるし、自動車会社のサラリーは低すぎるとボヤいているけれどもニコやかな表情がそれを和らげる。
彼は最近、Shah Alam(シャーアラム) より西の地区に家を買った。子供が3人で借家が手狭になったのだ。そのローン返済が600リンギット、タクシーの賃料が月に600リンギット。自動車会社からのサラリーが1300リンギットだからそれはほとんど借金に消える。それに携帯電話の料金やら子供のミルクが2缶で82リンギットなどいろいろあるのでサラリーだけではとても生活できない。
ちなみに火野正平が自動車会社に入った1995年のサラリーはたった400リンギットだったそうだ、定期昇給が年に40リンギットほどとの事。
タクシーの売り上げはどうなっているのかと聞いてみたら約2000リンギットあるそうだ。これでやっと普通並みの生活費が入ってくるのだとわかった。火野タクシーは今日も走るのだ。
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