温泉クンの旅日記

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空の奥 ③

2006-05-06 | 旅行記
 3章 温泉中毒

 与一温泉ホテルであてがわれたのは、二階にある洗面とトイレつきの小ぎれいな
六畳の部屋だった。ホテルの部屋数はぜんぶで十数室ほどである。冷蔵庫のなかに
は温泉水を詰めたガラスの広口瓶がはいっている。無料で勝手に飲める。ザックの
なかからミネラルウォーターとお茶のペットボトルを取り出して冷蔵庫の狭い冷凍
スペースに格納する。水割り用に急いで冷やすのだ。すぐに浴衣に着替える。

 わたしは無類の温泉好きである。ただあちこち旅をするだけでも面白かったが、
あるときから旅行先で温泉にはいり、そこのタオルを収集するようになった。手帳
に温泉名をつけるようにもなった。そのうち温泉が旅の目的となって数年、いまで
は手帳のリストも九百を超えた。

 なにをおいてもまず温泉をいただきたい。しかし、ホテルの入り口に履物が散乱
していたところをみると日帰り客がまだ相当数いそうである。男風呂の更衣室を
覗いてみると、スリッパの数が異常に多いいので時間をおくことにする。サッカー
の決勝があるのですぐにいなくなるとの読みである。



 温泉は薄い黄褐色であった。檜の浴槽の横にしゃがむと、桶で湯を汲み両方の
足先にかける。下半身から上半身へと丁寧に温泉を何杯かかけて湯舟にゆっくり
浸かる。首まで沈めると、だらりと体の力を抜いてしばらく温泉の、奴の好きに
させるのだ。肌の脂を溶かす奴も数多くいる。強い奴は肌にがぶりと噛みついて
くる。弱い奴は肌理をじわじわ浸透してくる。掌で掻き寄せて肌に塗りこむように
する。その肌触りで泉質の呟きを感じ取る。軽くひと掬いした湯で顔をぬぐう。
うーむあーうーと、我慢していた喜悦の声はここらで洩らせばいい。一掬での
顔拭い、このときに温泉の匂いを存分に鼻から味わうのが肝心である。間違っても
お湯を鼻から吸ってはいけない。絞った濡れタオルを畳んで頭にのせれば、手軽な
極楽境地の端っこに確かに自分は居るなと実感できる。軽度の温泉中毒のできあが
りだ。

 適当に温まったところで露天風呂に向かう。火照ったからだを外気で冷ます。
ここの露天は広いがちと浅い。朝はいってわかったが高い板囲いの向こうは竹林と
檜林であった。露天からの大自然の眺望は転地効果を高めてくれる。内風呂に戻り
短めに浸かって、最後の仕上げに掛け湯をするのだが、泊まりなので省略する。
 
 与一温泉のお湯は単純アルカリ泉で肌触りがよく、飲用も可で湯量もタップリ
豊富である。効能は糖尿病、胃腸病、高血圧によい。アトピーやアレルギーにも
効果があるらしく温泉水を販売しているそうだ。
 部屋に戻り、酒を呑みながらワールドカップサッカーの決勝、ドイツ対ブラジル
をテレビ観戦する。個人技のブラジルが少ないチャンスをものにして、結局あの
霊長類最強のキーパーであるオリバー・カーンから二点をもぎとって優勝してしま
う。夕食は途中のコンビニで買った、ドライカレーおにぎり一個と小さい稲荷寿司
を三個で済ました。ついに、日本中がサッカーに浮かれに浮かれた一ヶ月の終焉が
きた。それを薄目で確認するとテレビも消さずに深い眠りに一気に落ちた。

 鳥のよく通る鳴き声で五時前に目を覚ます。
 
 雨のなか八時出発し、国道四号線にでて仙台に向かう。走れども走れども、心が
沈むいつもの雨である。
 
 仙台から東北道に乗り、最初のサービスエリアで本を取り出して今夜の宿を
とる。
 このときもう午後二時、宿までは五時間はかかるといわれ、車をぶっ飛ばす。
鳥目であると自覚しているので、見知らぬ土地を暗くなって走りたくない。まして
雨なら最悪である。
 盛岡南インターを出てナビをみると、目的地まであと二百八十キロもある。到着
予想はなんと午後十一時でびっくりし、ナビを無視することにした。地図をみて
大体の経路を頭にいれて、道路標示に従って宮古に向かう。途中でナビも気がつい
たのか自ら修正し百キロほどになる。

 宮古への道は北海道のそれによく似ていた。


  →空の奥④に続く
  →空の奥②はこちら

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