Vivaldi: Suonate da Camera a Tre op. 1/VII - XII
Deutsche harmonia mundi LC 00761
演奏:L’Arte dell’Arco, Christopher Hogwood (harpsichord & chamber organ)
アントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Lucio Vivaldi, 1678 - 1741)は、今日ではまず協奏曲の作曲家として広く知られている。およそ500曲の協奏曲が作曲されたと考えられているのに対し、ソナタは約100曲ほどが知られているに過ぎない。1705年にヴェネツィアのジュゼッペ・サラ(Giuseppe Sala)から出版された作品1は、2つのヴァイオリンと通奏低音のための12のトリオソナタである。ただ、この1705年のサラによる版が初版でない可能性が指摘されている。ヴィヴァルディが1703年9月に就任したヴェネツィアのピエタ慈善院のヴァイオリン教師について触れられていないことなどから、初版の出版がそれ以前である可能性があるからである。この作品1は、後にオランダのローハーやフランスのル・クラーレ・ル・カデからも刊行されたが、残っている部数が極めて僅かで、刊行当時それほど高く評価されていなかった可能性がある。
この作品1の基本的な構想は、ゆっくりとした前奏曲に始まり、3曲の舞曲が続く、緩・急・緩・急の室内ソナタである。しかし、中には緩・急・急の3楽章からなるものもあり、最後の第12番は、単一楽章の「フォリア(Folia)」である。ヴィヴァルディは、この作品1の後1709年に独奏ヴァイオリンと通奏低音のための12のソナタ作品2を刊行しているが、その後1711年に作品3の「調和の幻想(L’estro armonico)」を出版した後、1729年の作品12まで、すべて協奏曲ばかりを出版している。
今回紹介するCDは、この作品1の第7番から第12番までの6曲を収録したドイツ・ハルモニア・ムンディ盤である。これらの6曲を聴くと、コレッリの作品4の刊行から10年を経たヴィヴァルディの作品が、簡潔で整ったコレッリの様式とはかなり異なっていることが分かる。後の協奏曲と比較すると、確かにヴァイオリンの技巧的展開は見られないが、いずれの楽章も、ヴィヴァルディらしい個性が明瞭に現れている。第8番の第3楽章グラーヴを例に取れば、通奏低音部の付点のリズムを持つ反復音型(オスティナート)を伴う楽想は、たとえば作品8の2、「四季」の「夏」第2楽章など、後の協奏曲の緩徐楽章と共通したところがある。第12番は、スペイン起源のゆっくりとした舞曲の主題に基づく20の変奏からなっている。1700年に出版されたコレッリの作品5の独奏ヴァイオリンと通奏低音のための12のソナタの第12番も同じく「フォリア」と題された24の変奏からなっている。コレッリの場合は独奏ヴァイオリンによる変奏であるのに対し、2つのヴァイオリンによるトリオ編成のヴィヴァルディのフォリアは、和声の厚みが加わっている。
このCDで演奏しているのは、イタリアのラルテ・デラルコ(L’Arte Dell’Arco)とクリストファー・ホグウッドである。ラルテ・デラルコは、1994年にフェデリコ・グリエルモとジオヴァンニ・グリエルモの兄弟によって組織されたオリジナル楽器編成のアンサンブルである。この録音では、兄弟によるヴァイオリンのほか、チェロのピエトロ・ボスナ(Pietro Bosna)とテオルボのフェデリコ・マリンコーラ(Federico Marincola)が加わっている。それにクリストファー・ホグウッドがチェンバロと室内オルガンを演奏して参加している。ラルテ・デラルコが使用している楽器は、ピエタ慈善院が所有するもので、アンサンブルがもっぱら演奏会における使用を許されているのだそうだ。ホグウッドについては、改めて述べる必要はないだろう、1973年にアカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックを組織して以来、2006年にリチャード・エガーにその地位を譲るまで永年活動する一方で、鍵盤楽器奏者としても活躍してきた。今回のラルテ・デラルコとの共演によるドイツ・ハルモニア・ムンディでの録音は、今後の共演の始まりであると、添付の冊子には記されている。録音は、1997年5月にヴェネト州ヴィンツェンツァ県のモンテッキオ・マッジョーレにあるヴィッラ・コルデッリーナ・ロムバルディで行われた。演奏のピッチは a’ = 442 Hz、鍵盤楽器の調律はヴァロッティである。
今回紹介したCDは、2009年18月にソニー・ミュージックから新装再発されたもので、現在も容易に購入できる。