私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 



Giovanni Maria Bononcini: Sonate à tre, Henry Purcell: Sonata’s of III parts
Fuga Libera FUG514
演奏:Jaap Schröder (violin), Arcadia Players Trio

今回紹介するのは、前回までのコレッリやヴィヴァルディよりやや時代を遡った17世紀後半に活躍したイギリスのヘンリー・パーセルとイタリアのジオヴァンニ・マリア・ボノンチーニのトリオソナタである。紹介するCDは、ヤープ・シュレーダーとアルカディア・プレイヤーズ・トリオによるフーガ・リベラ盤である。添付の小冊子に掲載されているシュレーダーによる解説を読むと、パーセルの作品の紹介が主で、その手本となったイタリアのトリオソナタの例として、ボノンチーニの作品が取り上げられたようだ。
 イギリスの音楽史上最大の作曲家、ヘンリー・パーセル(Henry Purcell, 1659 [?] – 1695)は、王室礼拝堂に属するジェントリーであった父親ヘンリーの3人の息子、トーマス、ヘンリー、ダニエルのひとりで、3人はいずれも音楽家となった。ヘンリーは、早くから音楽教育を受け、1676年にはウェストミンスター・アベイのオルガニストに任命された。1669年以来ウェストミンスター・アベイのオルガニストであったジョン・ブロウ (John Blow, 1649 – 1708)が、後進に道を譲るために引退した後、ヘンリー・パーセルは、アンセムなど宗教音楽の作曲に専念するようになる。1682年には、王室礼拝堂の オルガニストも兼任することになった。1680年代終わり頃からオペラや劇音楽の作曲を始めたが、音楽家としてまさに脂が乗ってきた1695年に、36歳の若さで急死してしまう。ヘンリー・パーセルは、その短い生涯の間にアンセムや賛美歌などの宗教曲、オペラや劇付随音楽、そして器楽曲、鍵盤楽器曲など多くの作品を作曲した。全体から見ると、器楽曲の数は少ないが、イタリアやフランスの影響を受けながら、パーセルの個性が感じられる作品になっている。このCDで紹介されているのは、1683年に出版された「3声のソナタ(Sonata’s of III Parts)」(Z 790 - Z 801)からの6曲である。いずれも「ソナタ(Sonnata)」と題された部分から始まり、基本的には急・緩・急・緩の構成であるが、曲によってはより複雑な構成を取っており、楽章の区分はあまり明確ではない。コレッリの作品のように「教会ソナタ」か「室内ソナタ」の区分は、パーセルにはなかったと思われるが、表記上は舞曲の名は使われていない。しかし、最後の速いテンポの部分がジーグのようなリズムを採用していたり、第XI番ヘ短調(Z 800)と第XII番(Z 801)の中間部にメヌエットを思わせる部分がある。速いテンポの部分は一貫してフーガになっている。
 ジオヴァンニ・マリア・ボノンチーニ(Giovanni Maria Bononcini, 1642 - 1678)はモデナ近郊のモンテコローネの生まれで、モンテのサン・ジオヴァンニ教会、その後ボローニャのサン・ペトロニオ教会の楽長を務め、ボローニャのアカデミア・フィラルモニカ(Accademia Filarmonica)の一員でもあった。1671年に招かれてモデナのエステ家の宮廷ヴァイオリニスト、1674年からは聖堂の楽長に就任して、生涯その地位にあった。ボノンチーニは多くの声楽曲、器楽曲を作曲した。このCDに4曲が収録されている作品1は、1666年にヴェネツィアで出版された「2つのヴァイオリンと通奏低音のための音楽の園の最初の果実(Primi Frutti del Giardino Musicale à due violini e basso)」と題されたトリオソナタ集である。これらのソナタは単一楽章で、長さは様々で、第4番はABCA、第5番はABAB’Aと言った構成を取っている。1667年に同じくヴェネツィアで出版された作品2は「1声、2声、3声、4声の室内ソナタと舞曲(Delle Sonate de camera, e ballo à 1,2,3, e 4)」と題されている。この「室内ソナタ」という名称は後の出版譜でも使用しており、コレッリに先行していることは注目すべき点である。この作品2の11番は、速いテンポの単一楽章である。1669年にボローニャで出版された作品3の「音楽の園の様々な花、室内ソナタ・・・(Varii fiori del giardino musicale, overo Sonate da camera …)」の17番は、短い緩やかな序奏に速いテンポのフーガが続く短い曲である。1675年にボローニャで出版された作品9の「3、4声の音楽の娯楽(Trattenimenti musicali à tre & à quattro stromenti)」と題する曲集からは、第1、第3、第5、第9番が収録されている。基本構成は急・緩・急で、それに緩やかなテンポの序奏や集結部が加わる場合がある。ボノンチーニのトリオソナタは、出版を重ねて行く内にフーガなどの対位法が緻密になって行くが、楽章構成の一貫性は見られず、作品9の第9番でも速いテンポのABA形式の短い作品になっている。
 今回紹介するCDで、パーセルのトリオソナタに時代的にやや先行しているボノンチーニの作品を組み合わせる事により、イタリアの影響を示そうという意図が見られるが、ただそれだけではなく、1673年にエステ家のマリア・ベアトリーチェが、後にイングランド国王ジェームスII世になるヨーク公と結婚した事により、ボノンチーニの作品が、宮廷を通じてパーセルにも知られることになった可能性があると言う考えも有ってのことである。この2人のトリオソナタを聴く事によって、コレッリの作品が登場する寸前のトリオソナタの形態を知ることが出来る点が、このCDの特徴といって良い。
 今回紹介するCDは、ヤープ・シュレーダーとアルカディア・プレイヤーズ・トリオの演奏によるフーガ・リベラ盤である。ヤープ・シュレーダー(Jaap Schroeder)は、1925年アムステルダム生まれのヴァイオリニストで、アムステルダムの音楽院、後にパリでヴァイオリンを学び、同時にソルボンヌで音楽学を学んだ。その後フランス・ブリュッヒェンを中心とした演奏家グループに属し、すでに1960年代からバロック・ヴァイオリンを演奏するようになった。1981年からはクリストファー・ホグウッド指揮のアカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックのコンサートマスターを務めていた。同時にスミソニアン・チェンバー・プレイヤーズなどアメリカの演奏団体と共演するとともに、イェール大学などアメリカのいくつかの大学や音楽専門学校で教えている。アルカディア・プレイヤーズは、1989年に創設されたアメリカ、マサチューセッツ大学に拠点を置く演奏団体で、バロック・オーケストラ、合唱団、室内楽団などを擁し、活発な活動を行っている。この組織に属するトリオは創立の1989年以来活動をしており、ヴァイオリンのダナ・メイベン、チェロのアリス・ロビンス、鍵盤楽器のマーガレット・アーウィン=ブランドンはいずれもこの団体の中心メンバーである。ヤープ・シュレーダーとの共演は1991年に始まっている。
 フーガ・リベラは、2004年に創設されたベルギーのレーベルで、リチェルカール、アルファと共同のウェブサイトを運営していたが、一時休止した後、現在はOuthereグループの一員として、そのウェブサイトでアクセスできるようになった。フーガ・リベラは、後期バロック音楽から現代音楽まで、 オリジナル楽器、現代楽器を含めレパートリーを有している。Outhereは、これら3つのレ-ベルのほかに、Zig Zag Territoires、Ramée、Phi、Æon、Outnoteなどの特徴あるマイナー・レーベルが加わり、中世から現代、それにジャズまで、幅広いCDを販売している注目すべきグループである。
今回紹介するCDの録音などのデータは記されていないが、2006年に発売されたらしく、現在も入手可能である。

発売元:Fuga Libera

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