私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 



Vivaldi, Concerti “Alla Rustica”
Archiv Produktion 415 674-2
演奏:The English Concert, Trevor Pinnock (Directed from the harpsichord and organ)

アントニオ・ヴィヴァルディ(1678 -1741)の作品はおびただしい数に上るが、その中でも協奏曲は500曲近くあり、その約半数はヴァイオリンを独奏楽器にしている。これはヴィヴァルディがヴァイオリンの名手であったことから当然の結果であろう。その様式は、出版された作品では整った形式のものが多い一方、機会に応じて個々に作曲された作品には、ヴァイオリンの演奏技巧を誇示するようなものが多い。ヴァイオリンを独奏楽器としている協奏曲のほかには、チェロやヴィオラ・ダ・モーレ、マンドリン、それに種々な木管楽器のための協奏曲がある。
 今回紹介するCDは、このような多彩な独奏楽器のための協奏曲を収録したものである。表題となっている”Alla Rustica”は「素朴に」と言った意味で、このCDの第1曲目に入っている協奏曲の題名である。この作品は、特定の独奏楽器を持たない形式の協奏曲で、全体的に民衆音楽的楽想を有しており、特にオーボエ2本とファゴットが加わる第3楽章は、民謡を彷彿とさせる。このト長調の作品(RV 151)の演奏時間は、3分40秒と非常に短いが、根っから陽気な曲である。
 2曲目はオーボエとヴァイオリンを独奏楽器とする変ロ長調の協奏曲(RV 548)、第4曲目はヴァイオリン2挺を独奏楽器とする協奏曲ト長調(RV 516)、第5曲目はオーボエ独奏と弦楽合奏のための協奏曲イ短調(RV 461)である。そして最後の第6曲はマンドリン2挺と弦楽合奏のための協奏曲ト長調(RV 532)である。マンドリンは、リュートをその先祖に持つ撥弦楽器で、17世紀のイタリア起源とされている。バロック時代には、ヴィヴァルディのほかドメニコ・スカルラッティ、ヨハン・アドルフ・ハッセ等の作品がある。このヴィヴァルディの協奏曲では、今日のマンドリン・オーケストラのようにトレモロ奏法は採用されていない。
 そしてこのCDの第3曲目には、”con molti stromenti”(種々の楽器を伴う)と記されたハ長調の協奏曲(RV 558)が収録されている。独奏楽器としては、リコーダー2,シャリュモー(chalumeauまたはsalmò、クラリネットの前身の一枚リードの木管楽器)2、マンドリン2、テオルボ2、それにヴァイオリン”in tromba marima”2を独奏楽器としている。しかしこの”violino in tromba maria”が何を意味するかよく分からない。”Tromba marina”は、以前に「バロック時代の楽器百科」で簡単に触れたが、その名「海のトランペット」が示す金管楽器ではなく、一種の擦弦楽器である。ただその音が、なぜかトランペットのような音がするため、そのように名付けられたものと思われるが、ここでの「トロムバ・マリーナ・ヴァイオリン」がいったい何なのかは、よく分からないようだ。このCDでは、出版譜同様普通のバロック・ヴァイオリンが使われている。ヴィヴァルディは、このような様々な種類の独奏楽器を複数持つ協奏曲を、ほかにも多数作曲している。この協奏曲は、ピエタ慈善院付属音楽院 (Ospedale della Pietà)の合唱長ジェンナーロ・ダレッサンドロ(Gennaro D’Alessandro)が1740年にザクセン選帝候フリートリヒ・クリスティアン(ポーランド国王)を賛美する祝祭音楽会で演奏したカンタータに挿入されたヴィヴァルディの4つのオーケストラ作品のひとつとして作曲されたものである。1740年には、ヴィヴァルディは神聖ローマ皇帝カールVI世の庇護を得ようとヴィーンに向かい、翌年7月に同地で死亡しているので、最晩年のヴェネツィアを離れる直前の作品と言えよう。種類の異なる様々な楽器の音色が交錯するなかなか魅力的な作品である。
 ヴィヴァルディの協奏曲は、もともと屈託のない明るい楽想の音楽であるが、このCDに収められた作品は、楽器編成の変化に富んでおり、理屈抜きに楽しめる。トレヴァー・ピノックが鍵盤楽器を弾きながら指揮をするイングリッシュ・コンサートの演奏、コンサートマスターのサイモン・スタンディッジやリュート、テオルボを演奏するナイジェル・ノース、リコーダーのフィリップ・ピケットなど名手揃いの独奏がこの曲目の魅力をさらに高めている。このCDは、現在もドイツ・グラモフォンのサイトにAntonio Vivaldi: Concerti »Alla Rustica«、番号457 8972として掲載されており、入手可能である。

発売元:Deutsche Grammophon

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コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
in toromba marina (aeternitas)
2008-12-28 10:28:56
ピノックたちのCD、わたしも持っています。RV532の第2楽章の静謐さが、とくに気に入って、何度もくりかえしきいていました。RV532をきくときには、いまでもピノックですが、ほかの曲はイタリア勢の演奏できくことが多くなっています。
たとえば、RV558はビオンディたちの演奏で楽しんでいます。この二つの演奏は、どちらもすぐれた演奏だと思いますが、ききくらべると隔世の感があります。
このRV558で、ビオンディはin toromba marinaをひくにあたり、アルミ箔のようなものを駒にかぶせています。それでビリビリした共鳴音をだし、トロンバ・マリーナの響きを模しているのでしょう。ひとつのアイデアとして、おもしろくきけます。
 
 
 
Violino in tromba marina (ogawa_j)
2008-12-28 11:48:12
aeternitasさん、コメントありがとうございました。
 ピノック、ビオンディともに、歴史的奏法にあまり拘泥せずに演奏するという点では共通するところがありますが、奔放さではビオンディの方が勝っていますね。駒に金属箔をかぶせて奏するなど、史実にこだわらない発想のように思われます。その演奏は聴いたことがありませんので、ちょっと探して見ます。ただ、ビオンディとエウローパ・ガランテは、Opus 111が無くなって、ヴァージンに移籍したりして、見つけるのがやや難しくなっていますね。
 
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