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私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Beethoven: Symphony 3 “Eroica”
EMI CDC 7 49101 2
演奏:The London Classical Players, conducted by Roger Norrington

ルートヴィヒ・ファン・ベートーフェン(Ludwig van Beethoven, 1770 - 1827)の交響曲第3番変ホ長調作品55は、1803年から1804年にかけて作曲された。ベートーフェンは1789年に始まったフランス革命に強く共感しており、後に一時的にナポレオンの支持者でもあった。そしてナポレオンを人類を解放するために神々から火を盗もうとしたギリシャ神話の半神プロメテウスにたとえて、1802年にバレー音楽「プロメテウスの創造物(Die Geschöpfe des Prometheus)」作品43を作曲していた。ベートーフェンは一時、パリに引っ越し、交響曲第3番をナポレオンに献呈しようと、この曲を「ボナパルトと題する大交響曲(Sinfonia grande, intitolata Bonaparte)」と題していた。しかし1804年になってナポレオンが自ら皇帝に就任したことにベートーフェンは甚く失望し、1806年になって「ある偉大なる人物の追憶のために作曲した交響曲」と題し、「英雄的交響曲(Heroische Sinfonie)」あるいは「エロイカ(Eroica)」という標題を記した。公開の初演は、1705年4月7日にアン・デア・ヴィーン劇場で行われた。
 ベートーフェンの交響曲は、第1番、第2番では、ハイドンの後期の交響曲に典型的に見られる古典派の交響曲の形式を踏襲し、第1楽章は緩やかな序奏とソナタ形式の主部、第2楽章もソナタ形式の緩徐楽章、第3楽章はABA形式のメヌエットあるいはスケルツォ、第4楽章はソナタ形式またはロンド形式を取っている。第3番になると、ベートーフェンはこの古典派の交響曲の形式の枠を越え、独自の道を歩み始める。第1楽章アレグロ・コン・ブリオは、二つの和音の連打のあと直ちにソナタ形式の主部に入る。第2楽章は「葬送行進曲」と題され、ABACAの小ロンド形式と見ることが出来る。第3楽章は、ABA’の複合三部形式からなるスケルツォである。そして第4楽章は、変奏曲である。11小節の序奏のあとに主題の低音部が提示され、それが2度変奏された後、77小節になって初めて旋律主題が提示される。この主題は、バレー音楽「プロメテウスの創造物」の最終楽章と同じで、いわゆる「エロイカ変奏曲」作品35とも同じである。いくつかの変奏は、ソナタ形式の間奏と見なす場合もある。また、第10変奏は、コーダと見て、変奏に加えない場合もある。433小節からプレストで堂々たる終結部となる。この様な楽章構成や形式を挙げただけでは、この交響曲の特徴は分からないであろう。実際に曲を聴くと、いずれの楽章に於いても、古典派の交響曲の形式を越えて、ベートーフェンの個性的な表現を明瞭に聞き取ることが出来る。新たな主題の提示や曲の段階の移行に区切りを入れることなく、全体が弧を描くように一体となっている。この第3番の交響曲は、長さの上でも従来の枠を越えており、45分から50分を要する。
 ロマン主義の時代の影響を受けたベートーフェンの交響曲の演奏については、「オリジナル楽器編成のオーケストラで聴く古典派の交響曲ーベートーフェンの『第九』」でも述べたが、過去には主観的な感情移入に基づく楽器編成の変更やテンポの恣意的な解釈など、作曲当時とはほど遠い演奏が罷り通っていた。しかしやがてこの様な演奏に対する反省から、楽譜に忠実な演奏を標榜する動きが次第に力を増し、そこに作品の成立した時代の楽器で、当時の演奏様式による演奏を行う奏者たちが登場し、モダン楽器編成のオーケストラによる演奏でも、現在では極端な例は少なくなって来ている。
 オリジナル楽器編成の合奏団の先駆けは、1953年創設のコンセントゥス・ムジクス・ヴィーン、1954年創設のカペッラ・コロニエンシス、1955年創設のレオンハルト・コンソート等であるが、当初これらの合奏団は、主としてバッハなどバロック時代の作品を演奏していた。このあと1962年に創設されたコレーギウム・アウレウムの場合も同様である。1970年代に入って、これらの楽団の活動が活発になると、イギリスにイングリッシュ・コンサート(1972年)やアカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージック(1973年)が創設される。しかし、古典派の作曲家、ハイドンやモーツァルトのオーケストラ作品が、オリジナル編成の楽団で演奏されるようになるのは、ようやく1970年代末になってからである。ベートーフェンの交響曲のオリジナル編成による演奏が本格的に行われるようになるのは、1980年代後半のことである。それには、オーケストラを構成する奏者の数が充分に整うのを待たなければならなかったためである。このことは、イングリッシュ・バロック・ソロイスツやロンドン・クラシカル・プレイヤーズが創設されるのが、いずれも1978年である事からも分かる。そしてこれらのオーケストラを構成する奏者は、アカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージック、イングリッシュ・コンサートなども含めて、ほとんどが重複している。すなわち、これらのオーケストラは、その音楽的責任者こそ違え、ある一団の奏者たちによって構成されていたのである。
 今回紹介するベートーフェンの交響曲第3番変ホ長調作品55「エロイカ」のロジャー・ノリントン指揮、ザ・ロンドン・クラシカル・プレイヤーズの演奏によるEMIレーベルのCDは、1987年10月に録音されたものである。ノリントンによる一連のベートーフェンの交響曲の録音における重要な特徴の一つは、テンポの問題である。ベートーフェンは、友人であったヨハン・ネポムーク・メルツェル(Johann Nepomuk Mälzel, 1772 - 1838)が発明したメトロノームを初めて利用した音楽家であった。もともと交響曲第8番までは、メトロノーム記号は記されていなかった。1826年になって、ベートーフェンが甥のカールに交響曲のメトロノーム指定をまとめて口述筆記させ、ショット社に送り、以降このメトロノーム記号が出版譜に掲載されることとなった。先に触れたロマン主義の影響を受けた主観的な演奏解釈に於いては、このメトロノーム記号について、イタリア語によるテンポ指示と矛盾しているなどの理由を挙げて、極端な場合メルツェルのメトロノームが正しく機能していなかったと主張するに至った。しかしながら、当時でも現在でも、振り子時計の時間の刻みは不変なもので、もしメルツェルのメトロノームが狂っていたなら、当時の人でも容易にその事が分かった筈であり、この主張が根拠のないものであることは明らかである。ノリントンも述べているように、ベートーフェンのメトロノーム指示を、唯一絶対なものと考えるべきではないが、作曲家自身が示したガイドとして尊重し、それから遠く離れることは、創作者の意図をそこなうことになるのである。ノリントンによるベートーフェンの交響曲のCDには、このベートーフェンのメトロノーム記号が記されており、このテンポ指示を重視していることを示している。
 交響曲第3番の演奏におけるロンドン・クラシカル・プレイヤーズの編成は、第1、第2ヴァイオリン各10、ヴィオラ8、チェロ6、コントラバス6、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット各2、ホルン4、トランペット2とティンパニ1の55人である。この編成による演奏を聴くと、弦楽器と管楽器の音のバランスが良く、それらを含めて全体的に各音部の動きが明瞭に聞き取れ、モダンオーケストラの混濁した響きでは分からない曲の立体的な構造を良く理解することが出来る。ベートーフェンの交響曲を聴くときは、特にこのノリントンとロンドン・クラシカル・プレイヤーの演奏に限ることなく、オリジナル編成のオーケストラによる演奏で聴くことをお勧めする。
 録音は、1987年10月にロンドンで行われた。演奏のピッチは、a’ = 430 Hzである。なお、このCDには、他に「プロメテウスの創造物」の序曲も収録されている。
 EMIで録音され発売されていたオリジナル楽器のよる演奏は、現在ヴァージン・レーベルで販売されており、交響曲第3番の録音は、ベートーフェンの交響曲全集の5枚組(Virgin Classics 0724356194328)か交響曲とピアノ協奏曲をまとめた7枚組(Virgin Classics 509908342324)でしか入手出来ない。

発売元:EMI Classics/Virgin Classics


0724356194328


5099908342324

注)ベートーフェンの交響曲第3番の成立事情につては、主としてウィキペディアドイツ語版の”3. Sinfonie (Beethoven)“を参考にした。

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