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私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Schubert: Winterreise
TELDEC 0630-18824-2
演奏:Christoph Prégardien (Tenor), Andreas Staier (Pianoforte)

リート(Lied)という言葉は、ドイツ語で「歌」を意味し、その意味では中世の吟遊歌人らが歌うものをそのように名付けたことに始まっていると言われている。しかし、現在「リート」と呼ばれる楽曲は、詩の情感を伝える伴奏を伴った歌曲を意味するものとして使われており、1770年にグルックがクロプシュトックの作詩に基づいて書いた「賛歌と歌曲」というピアノ伴奏付き歌曲集がその始まりとされる。そしてモーツァルトが、有節歌曲から、通作歌曲を作り出した。これは詩の各節を同じ旋律で繰り返す有節歌曲とは違って、詩の展開に伴って、旋律も伴奏も変化して行く形式の歌曲である。その代表的な作品が、ゲーテの詩による「すみれ」である。これをベートーフェンが引き継ぎ、シューベルトによって、「リート」は芸術分野として確立されたのである。ベートーフェンはさらに、内容的に関連する複数の詩からなる「連作歌曲形式」を産みだし、これを引き継いでシューベルトが「美しき水車小屋の娘」と「冬の旅」を作曲した。
 フランツ・シューベルト(Franz Peter Schubert, 1797 - 1828)は、1823年頃から体調を崩し、結局1828年の死まで、回復することがなかった。そんな中で、1723年に、ヴィルヘルム・ミュラーの「旅するヴァルトホルン奏者が書き残した77編の詩(77 nachgelassenen Gedichten aus den Papieren eines reisenden Waldhornisten)」に含まれる「美しき水車小屋の娘」と題する詩に出会い、25編の内20編を作曲した。そして、1827年2月に、まず1723年「ウラニア、1723年版小冊(Urania. Taschenbuch auf das Jahr 1823)」に掲載された「ヴィルヘルム・ミュラー作のさすらいの歌、冬の旅、12編のリート(Wanderlieder von Wilhelm Müller verfasst. Die Winterreise. In 12 Liedern)」に基づき作曲した。この12曲は、1828年1月24日に、ヴィーンの出版社トービアス・ハスリンガーから出版された。その後おそらく1827年の夏に、1724年に「旅するヴァルトホルン奏者が書き残した詩、第2巻、人生と愛のリート(Gedichte aus den hinterlassenen Papieren eines reisenden Waldhornisten. Zweites Bändchen. Lieder des Lebens und der Liebe)」に掲載された24編の詩の内、最初の12編に含まれていない詩をもとに12曲を作曲した。この12曲は、シューベルトの死の6週間後、12月31日に、同じくハスリンガーから出版された。ミュラーは「冬の旅」24編を出版する際に、最初の12編の順序を変更し、後の12編と併せて再構成したが、シューベルトは最初の12編を第1部としてそのままに、残りの12編を第2部として付け加える形にした。
 「冬の旅」は、失恋した若者が冬に、あてどない旅に赴くと言う設定で書かれた詩で、一貫した筋書きはなく、旅人の個々の印象を集めたものである。しかし、全体を通して、孤独感、絶望と悲しみが支配しており、死に向かって旅する若者の心情が共感を生んで、ロマン主義のリートの代表作となっている。
 リートは通常、特定の声部の指定はなく、歌手の声域に併せて移調して歌われることが普通になっている。この「冬の旅」の場合は、男声で歌われることが多く、古くはバリトンのゲルハルト・ヒュッシュや、ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウ、ハンス・ホッターなど、テノールのペーター・アンダースやペーター・シュライアーらの録音がある。女声では、メッツォ・ソプラノのクリスタ・ルートヴィヒやブリギッテ・ファスベンダーらの録音がある。
 今回紹介するCDは、テノールのクリストフ・プレガルディェン( Christoph Prégardien)とアンドレアス・シュタイアー(Andreas Staier)のピアノフォルテ伴奏によるテルデック盤である。クリストフ・プレガルディェンは、1956年にドイツ、ヘッセン州のリムブルク・アン・デア・ラーンで生まれたテノール歌手である。プレガルディェンは、バロック時代のオラトーリオや受難曲から、オペラ、リートなど広いレパートリーを持っており、オリジナル楽器、モダン楽器いずれの演奏団体、伴奏者とも共演している。以前に紹介した、グスタフ・レオンハルト指揮のバッハの「マタイ受難曲」の福音書記者や、トン・コープマン指揮のバッハカンタータ全集でも歌っている。「冬の旅」も、最近ミヒャエル・ギースの伴奏で新たに録音している。その一方で、アンドレアス・シュタイアーの伴奏でのリートの演奏会も度々行っている。 アンドレアス・シュタイアーは、ドイツ、ゲッティンゲン生まれの鍵盤楽器奏者で、1983年から1986年までムジカ・アンティクヴァ・ケルンのチェンバロ奏者をしていたほか、チェンバロ、ピアノフォルテ奏者として幅広く活躍している。
 シュタイアーが演奏しているフォルテ・ピアノは、1825年頃、ヴィーンのヨハン・フリッツ作のもので、この作品が作曲された時期の響きの再生にふさわしい楽器と言えよう。。リートをピアノ・フォルテ(モダン・ピアノ)の伴奏で演奏することの、オリジナル楽器での演奏の意義に疑問を抱く人も居ると思うが、声と伴奏によって成立する響きには、確かに違いがある。その違いは曲の印象をかなり変える。その違いを経験するのは、決して作品を鑑賞する上で無駄な事ではないと思う。フォルテ・ピアノの響きは、例えば「冬の旅」の21曲目「旅籠屋」冒頭の最弱音で始まる伴奏の、ハンマーが弦にかすかに触れて鳴る音の繊細さを聴けばよく分かる。録音は、1996年3月、ケルンの西ドイツ放送局で行われた。日本では、ワーナークラシック・ジャパンの「ニュー・ベスト50」(2004年1月21日発売)でWPCS-21243の番号で¥1,050で発売されており、現在も入手可能と思われる。

発売元:Warner Classics & Jazz

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