私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Guide des Instruments Anciens
Ricercar RIC 100
演奏:様々なオリジナル楽器演奏者、演奏団体

2007年2月23日の投稿「バロック時代の楽器百科」で紹介したリチェルカール・レーベルの3枚組のCDは、バロック時代の包括的な楽器便覧として非常に優れた企画であったが、長らく絶版となっていた。2009年に、一時的にそのウェブサイトがアクセス不能になっていたリチェルカール、アルファ、フーガ・リベラが復帰して、そのリチェルカールのカタログによって、今回紹介するCDセットが新たに発売されたことを知って、早速入手した。2009年11月に発売されたこのアルバムは、8枚のCDと、総ページ数200頁の解説書を、厚紙の立派なケースに収めた、堂々とした体裁を有している。
 ハードカバーの解説書は、175頁までが楽器の紹介、解説になっており、まず対象期間の概観、それに続いて擦弦楽器、撥弦楽器、木管楽器、金管楽器(角笛やコルネット〈ツィンク〉なども含む)、鍵盤楽器、打楽器の順で紹介される。見開きの左の頁にカラーの写真や図版を加えたフランス語の解説、右頁の上段に英語、下段にドイツ語の翻訳が掲載されている。この解説の著者はジェローム・レジュン(Jérôme Lejune)である。176頁から後は、8枚のCDの収録内容、図版の索引、そして楽器の索引が掲載されている。楽器の解説は英語とドイツ語の翻訳が掲載されているが、CDの収録内容、曲名や演奏者に関する情報などは、すべてフランス語のみで、それはCDケースについても同じである。


解説書のフランス語の頁の例

 CDのケースは同じくハードカバーで、1枚ずつ厚紙の袋に収められており、表面にはそれぞれに収録されている音楽の時代、裏面にはトラックリストが印刷されている。
8枚のCDの内容は以下の通りである:

CD I: 中世、「聖母マリアの歌(Cantiga de Santa Maria)」、トゥルヴェールとトゥルバドゥールの時代、多声楽の誕生:アルス・アンティクァとアルス・ノーヴァ、サン・アンの戦いの時代
CD II: ルネサンス:舞曲とバレ
CD III: ルネサンス:ファンタジーとリチェルカーレ、シャンソンとマドリガル、教会の音楽、変奏曲
CD IV: ディミニューション(音価縮小による変奏)の芸術、クラウディオ・モンテヴェルディの時代、鳥と笛
CD V: ルイ14世の周辺、ルター派のドイツ
CD VI: ヨハン・ゼバスティアン・バッハの時代、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの息子達
CD VII: コンチェルタント様式、ルイ15世の時代、コンセール・スピリチュエル時代のパリ
CD VIII: 古典派

 以上8枚のCDに206曲が収められており、中世の象牙で作られたオリファン(Olifant)というホルンの一種と太鼓による信号に始まり、ロッシーニの序曲「アルジェリアのイタリア女」の管楽器アンサンブルによる演奏に至る各曲は、リチェルカール・レーベルが所有する豊富な音源から選ばれたもので、各時代の様々な楽器の音を聞くことができると同時に、700年にわたるヨーロッパ音楽史をたどることができる。ただ、音楽史としては、このアルバムの性格上、声楽曲がほとんど含まれていないことは当然としても、必ずしも網羅的とはいえないので、このCDの主たる役割は、やはり楽器の音を聞くところにある。
 それでは何種類の楽器が収められているかといえば、なかなか簡単には答えられない。リュートやトランペット、ホルン、あるいは木管楽器のいくつかは、様々な時代の楽器が紹介されており、さらにその独奏だけではなく、合奏でも登場する。その一方、コルネット(ツィンク)の最低音楽器であるセルパン(Serpent)やトロムバ・マリーナ等の珍しい楽器の独奏も聞ける。オルガンもルネサンスの楽器からバロック時代のシュニットガー・オルガンまで、様々な演奏が収められている。古典派の時代には、ハイドンの作品もあるバリトンや、モーツァルトの作品で知られるグラスハーモニカも含まれ、さらに何種類ものフォルテピアノが紹介されている。
 収録されている曲の演奏者は、リチェルカールの単独で販売されているCDに登場する人たちで、オルガンのベルナール・フォクルールや鍵盤楽器奏者のグイ・ペンソン、リコーダー奏者のパトリック・デネカー、あるいはリチェルカール・コンソートのようなアンサンブルが登場する。
 なお、リチェルカールの音源には無い曲例は、アルファやアクサン、あるいはナイーヴ、フランス・ハルモニア・ムンディなどから提供を受けているが、その曲数は1割強に過ぎない。特にリチェルカールとしては比較的手薄な、18世に後半から古典派の曲で借用が多い。
 このリチェルカールの「歴史楽器便覧」に、http://blog.goo.ne.jp/ogawa_j/e/2e6c5227ffe5129e6a342974929da7fb デヴィッド・マンロウによる名盤「中世とルネサンスの楽器」を加えると、ヨーロッパ音楽の古楽器の音がすべて聞けるといって過言ではない。リチェルカールのアルバムでは、「中世」に分類されているのは2トラックのみで、4種類の楽器に過ぎないのに対して、マンロウのCDでは、1枚がすべて中世に割り当てられている。といってもリチェルカールのアルバムが不十分とは必ずしもいえず、その後の時代の中で紹介されている楽器もある。このリチェルカールのアルバムの登場によって、マンロウのCDの存在意義が減少することはない。マンロウという一人の天才が企画し、演奏にも参加しているそのCDは、不滅の価値を有しており、これら2つのアルバムは相互に補い合っていると言えるだろう。
 このリチェルカールのアルバムは、49ユーロという価格で、ベルナール・フォクルールによるバッハのオルガン作品全集と同じ価格だが、日本ではやや高い8,000円台で購入できる。なお、余談だが、このアルバムのケースの表に使用されている絵は、 デヴィッド・マンロウが「中世とルネサンスの楽器」というLP(CD)と同時に1976年にオクスフォード大学出版から刊行した同名の本の表紙と同じヤン・ブリューゲルの「聴覚(l’ouie, hearing)」と題する作品であることは、偶然かもしれないが興味深い。

発売元:Ricercar




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