私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 



Mozart Epistele Sonatas
Hyperíon CDA66377
演奏:The King’s Consort, The Classical Orchestra of the King’s Consort, Robert King (conductor)

ヴォルフガンク・アマデウス・モーツァルトの多岐にわたる作品の中では目立たない一群の作品がある。それは「教会ソナタ(Kirchensonaten)」あるいは「使徒書簡ソナタ(Epistelsonaten)」と名付けられた17曲の単一楽章の器楽作品である。カトリックのミサに於いて、使徒書簡朗読と福音書朗読の間を、通常はオルガンの即興演奏で埋めていたが、宮廷楽団員が参加している場合には時に応じて短い器楽曲を演奏していた。1772年にザルツブルク大司教領主に選ばれたヒエロニュムス・フランツ・ヨーゼフ・フォン・コロレード(Hieronymus Franz Josef von Colloredo)によって宮廷楽団の楽士長(Konzertmeister)に任命されたモーツァルトは、交響曲や嬉游曲、そして多くの宗教曲を作曲した。それらの中でやや特異な位置を占めているのが、この「教会ソナタ」あるいは「使徒書簡ソナタ」である。今回紹介するヒューペリオン・レーベルのCDに添付の解説書でロバート・キングは、これら17曲をモーツァルトが楽士長に任命された1772年から、最終的にザルツブルクを離れる1781年までの間に作曲したと記しているが、第1番変ホ長調(KV 67 [41h]*)、第2番変ロ長調(KV 68 [41i])と第3番ニ長調(KV 69 [41k])の3曲は、すでにその6年前、1766年から1767年にかけて作曲され、そのうちの1曲は1766年12月8日のザルツブルクの大聖堂におけるミサで演奏されたとも考えられて居る。
 この17曲の「教会ソナタ」は、演奏時間が2分半からせいぜい4分という短い単一楽章の作品で、すべて長調の調性のアンダンテからアレグロの曲である。編成は第1番から第11番までと第13番、第15番および第17番がヴァイオリン2とバス、オルガンという4人からなっており、第12番ハ長調(KV 263)はヴァイオリン2、トランペット2、バス、オルガン、第14番ト長調(KV 278 [271e])はヴァイオリン2、チェロ、オーボエ2、トランペット2、ティンパニ、バス、オルガン、そして第16番ハ長調(KV 329 [317a])はこれにホルン2が加わっている。これら編成の大きな3曲は、おそらくオーケストラによって演奏されたのであろう。
 上に述べた最初の3曲に続く第4番ニ長調(KV 144 [124a])と第5番ホ長調(KV 145 [124b])は1772年の作、第6番変ロ長調(KV 212)は1775年、第7番ヘ長調(KV 224 [241a])、第8番イ長調(KV 225 [241b])、第9番ト長調(KV 241)、第10番ヘ長調(KV 244)、第11番ニ長調(KV 245)および第12番ハ長調(KV 263)は1776年、第13番ト長調(KV 274 [271d])と第14番ハ長調(KV 278 [271e])は1777年、第15番ハ長調(KV 328 [317c])と第16番ハ長調(KV 329 [317a])は1779年、そして第17番ハ長調(KV 336 [336d])は1780年の作である。
 この「教会ソナタ」は、その名やミサの中で演奏される曲という概念から、荘厳さや敬虔な祈りを想像させる曲想を期待するかもしれないが、実際の曲には全くそのようなところはなく、セレナーデや嬉游曲などと全く異ならない。宮廷の音楽室で演奏しても何の違和感も感じない作品である。その点は全くモーツァルトらしいといって良い。
 今回紹介するヒューペリオン・レーベルのCDで演奏しているのは、ロバート・キング指揮のキングス・コンソートである。ロバート・キング(Robert King)は、1960年生まれのイギリスのチェンバロ奏者、指揮者で、1980年にオリジナル楽器編成の楽団、キングス・コンソートを創設した。この楽団は合唱団も併設されており、主にバロックから初期古典派の作品を演奏している。以前に紹介した「バッハのロ短調ミサ曲をオリジナル編成で聴く」で紹介したCDもこの楽団の演奏である。今回のCDでは、小編成の曲ではサイモン・スタンディッジとミカエラ・コムベルティがヴァイオリンを、ジェーン・コーがチェロ、独奏的なオルガンのある曲ではイアン・ワトスンが、そのほかの曲ではロバート・キングがオルガンを演奏している。大編成の3曲では第1、第1ヴァイオリン各4、チェロ2、コントラバス1、オーボエ2、ホルン2、トランペット2にティンパニとオルガンを加えたオーケストラ編成で演奏している。
 録音は1989年9月にハムステッドのセント・ジュード・オン・ザ・ヒル教会で行われた。ピッチはa’ = 430 Hzである。このCDは、現在ヒューペリオンの廉価版レーベルHeliosでCDH55314の番号で販売されている。

 発売元:Hyperíon


Hypeíon  Helios CDH55314


* モーツァルトの作品番号として今日用いられているのは、ケッヒェルによる作品目録の番号だが、これが作曲順に付けられているため、版を重ねるごとにその番号が変わり、同じ作品が異なる作品番号で参照されるという混乱を起こしている。ここでは初版の番号と第6版の番号が異なる場合はその両方を示した。

** 第1番から第3番の3曲については、ウェブサイト”Mozart Forum”の”The Köchel Catalogue”および”Klassika. Die deutschesprachigen Klassikseiten”の”Wolfgang Amadeus Mozart”では、1766年から1767年の作曲と記している。

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