
Johann Sebastian Bach: Das Kantatenwerk
Teldec, Das alte Werk 4509-91765-2 (60 CDs)
演奏:Concentus musicus Wien, Nikolaus Harnoncourt
Leonhardt Consort, Gustav Leonhardt
教会カンタータというのは、キリスト教会、特にプロテスタントの教会の礼拝で演奏される、声楽と器楽による楽曲の一種である。その多くは教会暦の定めにしたがって、特定の日曜・祝日の礼拝において演奏するために作曲されたものである。しかし、中にはその教会暦のどの日の為の曲であるのか分からないものや、冠婚葬祭などの礼拝のために作曲されたものも含まれている。バッハの教会カンタータは、1950年にヴォルフガンク・シュミーダーが編纂発行したバッハ作品目録の番号、BWVの1から200までが付されているが、その後バッハの作品ではないか、その疑いが強いと判断された作品が6つあり、さらに昇天祭オラトーリオであるBWV 11やモテットであるBWV 118がカンタータから除外されている。また、1楽章のみの断片しか残っていない作品、BWV 50とBWV 200もある。
バッハは1703年にアルンシュタットの新教会のオルガニストに任命されて以降、ミュールハウゼンの聖ブラジウス教会、ヴァイマール宮廷教会のオルガニスト、そして1723年から1750年に死亡するまでの間、教会の任務に就いていた。この間に教会カンタータを作曲する機会が有ったわけだが、1714年3月にヴァイマール宮廷の宮廷楽団の楽長(コンツェルトマイスター)に任命されるまでは、明確な義務が無く、実際に残っている作品も極めて少ない。1714年以降規則的にカンタータの作曲、演奏を行っていたのだが、ヴァイマール時代に作曲したことが分かっているのは30曲ほどで、残りの160曲あまりは全てライプツィヒのトーマス・カントールに就任して以降、最近の研究ではその多くが1723年から1727年までの間に作曲されたことが分かっている。これらの教会カンタータは、教会暦1年分を単位にまとめて保管されていたようで、バッハの死後もその状態を保って相続された。バッハの死後 次男のカール・フィリップ・エマーヌエル・バッハ(Carl Philipp Emanuel Bach)とゼバスティアン・バッハの弟子であったヨハン・フリートリヒ・アグリコーラ(Johann Friedrich Agricola)らによって書かれ、1754年ミーツラーの「音楽文庫(Musikalische Bibliothek)」に掲載された「死者略伝」には、教会暦5年分の教会カンタータがあったと記されているが、現在残っているものは、およそ3年分のまとまった作品とそれらに属さないものである。実際に5年分あったかどうかについても、議論がされている。いずれにしても、バッハの合計200曲足らずの教会カンタータは、彼の創作の中心を成しているもので、我々にとってのバッハからの偉大な遺産である。
今回紹介するテルデックによるバッハの教会カンタータ全集の最大の特徴は、バッハが実際に指揮して演奏した当時と同様、少年合唱団と男声の独唱者のみの編成で演奏していることである。それは、当時のプロテスタント、ルター派の教会では、女性を声楽に参加させることはなかったからで、ソプラノやアルトの声部は、少年か成年男子が裏声で歌っていた。少年合唱団は、当初ハルノンクールはヴィーン少年合唱団、レオンハルトはケンブリッジ・キングスカレッジ合唱団を起用して始まったが、途中からハルノンクールはテルツ少年合唱団、レオンハルトはハノーファ少年合唱団に替わった。また、レオンハルト・コンソートには、リコーダーやフラウト・トラベルソの奏者として、ときどきフランス・ブリュヘンが加わっている。この録音以外のバッハの教会カンタータのレコードは、ほとんど例外なく女声を含めた合唱団と独唱者を採用しており、この録音のようにバッハの演奏に忠実な演奏とは言えない。それには、まだ幼い少年達の表現力の未熟さという理由があるが、演奏の水準を高くするためとは言え、オリジナル編成という観点から見れば、致命的な妥協であると筆者は考えている。これでは古楽器を使用している意味がない。
アルノンクール、レオンハルトの二人は、今日の「古楽器」演奏の開拓者であり、その演奏様式は、当時の記録を研究して、出来る限り忠実にそれを再現しようとしたもので、現代的な演奏を聞き慣れた耳には、奇異な印象を受けるところもあるかも知れないが、使用している楽器も、現在のように演奏しやすいように、様々な工夫が加えられたものではなく、かなりオリジナルに近いように思われる。これらの点から見ても、この全集は、バッハが初演をした当時に最も近い演奏を聴くことが出来る、貴重な存在である。ただし、ソプラノ独唱のみのカンタータBWV 51とBWV 199の2曲については例外で、ハルノンクールはこの2作品で女性のソプラノ歌手を起用している。そのため厳密に言うなら、この全集も完全にオリジナル編成とは言えない。
また、この録音での編成が、バッハの演奏と完全に一致しているとは言えないところもある。バッハが1708年からオルガニストとして、そして1714年からコンツェルト・マイスターに就任して1717年まで勤めた、ヴァイマール公国の宮廷礼拝堂での礼拝のために作曲されたカンタータは、極めて小編成で演奏されたと考えられている。オーケストラも声楽部も1パート1人だったのではないか、と思われる。これらの曲においても、この全集では、ライプツィヒでの演奏と同様の、より大きな編成で演奏していると言う点など、実際とはやや異なっていると言えるかも知れない。しかしこの点は、余りにも厳密さを求めすぎているのかも知れない。
この録音は、当初アナログ録音で、2枚組のLPで発売されたが、1984年発売の第35巻(BWV 140、143 – 146)からデジタル録音になり、ほぼ同時期にCDも並行して販売されるようになった。ただ、現存する楽譜が不完全であることや、厳密に言って、教会カンタータとは言えないなどの理由からか、BWV 190、191、193、200は含まれていない。これらの曲は、西暦2000年のバッハの死後250周年に企画された、BACH 2000というバッハ作品全集の一環として、他の演奏者の録音によって、補充された。
このバッハの教会カンタータ全集は、現在でも、ワーナー・ミュージック・グループ傘下のワーナー・クラシックスのテルデック・クラシックスレーベルで販売されてる。現在リストに挙げられているものは、各6枚のCDからなる、BWV 1 からBWV 182までを収めた9巻(アルバム番号: 4509-91755-2から4509-91763-2)と60枚のCDで全てを収めたもの(アルバム番号:4509-91765-2)がある。これらは入手可能である。しかし、6枚組1巻でも1万円以上はするので、全巻そろえるのは、なかなか大変である。現在、クリスマスのカンタータ9曲(BWV 63, 91, 110, 40, 121, 57, 64, 133, 151)を収めた3枚組(0630-17366-2)が別にあるので、それを買うのも一案である。
発売元: Warner Classics

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