私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Wolfgang Amadeus Mozart: Divertimento K. 563, 4 Adagios & Fugues after Bach
Sony Music SK 46497
演奏:L’Archibudelli

ラルキブデッリ(L’Archibudelli)と言う名は、イタリア語の弓(archi)と腸あるいは羊腸弦(Budella)という言葉を組み合わせたもので、チェロ奏者のアネル・ビュルスマによって組織された弦楽器を中心としたアンサンブルである。以前に「モーツァルトのクラリネットのための室内楽をオリジナル編成で聴く」で紹介したCDでは、バセット・クラリネット奏者のチャールス・ナイデッチやフォルテピアノ奏者のロバート・レヴィンが加わっていた。
 今回紹介するCDは、モーツァルトの「ヴァイオリン、ヴィオラとチェロのためのディヴェルティメント変ホ長調」(KV 563)と「6曲の三声のフーガ」(KV 404a)を収録したソニー・クラシカル盤である。変ホ長調のディヴェルティメントは、1788年9月27日に作品目録に記入されており、ヴィーンの繊維商で、当時モーツアルトが多額の借金をしていたミヒャエル・フォン・プーフベルクのために作曲したのではないかと考えられている。6楽章からなるこの弦楽三重奏のディヴェルティメントは、モーツァルトの最後の3曲の交響曲のすぐ後に作曲された、非常に充実した作品である。
 「6曲の三声のフーガ」(KV 404a)は、バッハの「巧みに調律された鍵盤楽器のための前奏曲とフーガ」の3つのフーガと、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの「プロイセンのアマリア姫に献呈されたチェンバロのための8つのフーガ」の第8番、それに別のバッハの編曲2曲をまとめてKV 404aにしたもので、今回紹介するCDに収録されているのは、フリーデマン・バッハの曲と、バッハの「巧みに調律された鍵盤楽器のための前奏曲とフーガ」第1巻の第8番(BWV 853)、第2巻の第13番(BWV 882)と第14番(BWV 883)とモーツアルトによるそれぞれの前奏曲である。 この作品は、おそらく1782年ヴィーンにおいて作曲あるいは編曲されたと思われ、バッハやヘンデルの作品をバッハに紹介したファン・スヴィーテン男爵の日曜午後の演奏会のために作曲されたものと推定されているが、真作かどうかの疑念も提起されている。バッハの3つのフーガに関して言えば、第1巻第8番のフーガは変ホ短調、第2巻第13番は嬰ヘ長調、第2巻第14番は嬰ヘ短調であるが、モーツアルトはこれをそれぞれニ短調、ヘ長調、ト短調に移調している。編曲そのものは、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロに忠実に割り振っており、何ら創造的付加は見られない。前に「アンドレアス・シュタイアーのピアノフォルテの演奏でモーツアルトの作品を聴く」でも触れたように、1782年頃にモーツァルトは、ファン・スヴィーテン男爵を通じてヘンデルやバッハの作品を熱心に研究していたので、その一環としてこれらの作品を書いた可能性はある。
 このCDにおけるラルキブデッリは、ヴァイオリンをヴェラ・ベス、ヴィオラをユルゲン・クスマウル、チェロをアネル・ビュルスマという、このアンサンブルの中核メンバーが担当している。ベスのヴァイオリンは1727年アントーニオ・ストラディヴァリ、クスマウルのヴィオラは1785年ウィリアム・フォスター、ビュルスマのチェロは1835年ジアンフランチェスコ・プレッセンダ作である。録音は1990年5月30日から6月2日にかけてオランダ、ハールレムのルター教会に於いて行われた。演奏のピッチは記されていない。
 ディヴェルティメントは別にして、バッハと彼の長男のフーガの編曲は、なかなか聴く機会がないので、オリジナル楽器の名手達によるこの録音は、貴重な存在と言えるだろう。このCDは、現在日本のソニー・ミュージックで販売されている。

発売元:Sony Music

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コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
KV.563 (共結来縁)
2012-03-13 13:49:21
はじめまして。gooブログからお邪魔しました。

KV.563は学生時代に演奏したことがあって、モーツァルトの室内楽の中でも思い入れの強い曲です。若かりし自分にとっては、とにかく難しかったという印象が一番強いです。いわゆる『聞くと弾くとは大違い』というやつでしょうか(笑)。

特に大変だったのは第2メヌエットと終楽章です。やっぱり日本人にレントラーや6/8拍子の『ノリ』は難しい…。それだけでなく、やはり3大交響曲の後に作られたものだけあって、たった3台の弦楽器で演奏しているとは思えないくらいの中身の濃さですね。

同じgooブログなので、おヒマでしたら当方にもおいで下さい。
 
 
 
KV 563 (ogawa_j)
2012-03-14 10:37:11
共結来縁さん、コメントありがとうございます。
実際に演奏したことのある方の経験談は、もっぱら聴くことに専念している当ブログにとって、ありがたいものです。今後ともよろしくおねがいします。
 
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