アンドレアス・シュタイアーのピアノフォルテの演奏でモーツアルトの作品を聴く

Mozart: Sonate, Fantasia, Variazioni, Suite
Harmonia mundi France HMC 901815
演奏： Andreas Staier (pianoforte)

アンドレアス・シュタイアー（Andreas Staier）は、1955年にゲッティンゲンで生まれ、ハノーファの音楽学校、後にアムステルダムでピアノとチェンバロを学んだ。1983年から1986年まではムジカ・アンティクヴァ・ケルンのチェンバロ奏者をしていたが、幅広い活動を目指して楽団を離れ、それ以降チェンバロおよびピアノフォルテ奏者として、独奏、歌手や器楽奏者との共演を幅広く行っている。そのレパートリーは17世紀、18世紀から、19世紀の作品にまで及んでいるが、特にチェンバロではバッハ、フォルテピアノではモーツァルトとシューベルトに重点を置いている。
　今回紹介するCDは、モーツアルトのピアノの名手としての側面を紹介するフランス・ハルモニア・ムンディ盤である。1781年に独立した音楽家としてヴィーンに拠点を置いたモーツァルトは、ピアノの名手としての名声を獲得した。このCDに収録されている作品は、この1781年以降のものには限らず、特徴のあるピアノ曲が選ばれている。
　最初の曲は、1782年に作曲されたと思われる、未完成の組曲ハ長調（KV 399 <385i>）である。この曲は、当時としてはすでに時代遅れとなったバロックの組曲の形式を採っており、「序曲」と「アレグロ」に続き、「アルマンド」、「クーラント」そして「サラバンド」の6小節目で中断し、そのまま未完成となっている。 もしかしたらモーツァルトは、この形式の作品の研究を目的として作曲に取り掛かったのかも知れない。バッハやヘンデルの作品は、ヴィーンの宮廷図書館の長官、ゴットフリート・ファン・スヴィーテン男爵を通じて知る事になり、熱心に研究した。このCDでは、未完成の「サラバンド」をシュタイアーが24小節の作品に補足して演奏している。さらに、バロックの組曲では、最後にジーグが置かれることから、モーツァルトが1789年5月16日にザクセンの宮廷オルガニスト、カール・イマヌエル・エンゲルの記名帳に記入した「小ジーグ」ト長調（KV 574）が付け加えられている。
　次の「ソナタ変ホ長調」第4番（KV 282 <189g>）は、1775年にミュンヒェンで作曲された6曲ソナタの一つで、モーツァルトのソナタで他にないアダージョの楽章で始まる。真剣で憂鬱な楽想で始まるが、第2主題は対照的に明るい雰囲気をもたらす。続くメヌエットIとIIおよびアレグロは、第1楽章の性格的表現に対して、快活な楽章である。「変奏曲ト長調」（KV 455）は、クリストフ・ヴィリバルド・グルックのジングシュピール「メッカの巡礼」よりアリア「我らの愚かな民は思う」による10の変奏からなっている。
　1784年10月14日に完成した「ソナタハ短調」第14番（KV 457）と1785年5月20日に完成した「ファンタジーハ短調」（KV 475）は、別々に作曲されたが、1785年末に「フォルテピアノのためのファンタジーとソナタ・・・作品XI」としてヴィーンの出版社アルタリアから出版された。したがって、モーツァルトは、この2つの作品は密接に関連した作品、「ファンタジー」はソナタの前奏曲のような位置付けをしていたように思える。
　シュタイアーが演奏しているのは、1785年頃にヴィーンのアントン・ヴァルターによって製作されたフォルテピアノをマールプルクのモニカ・マイが1986年に複製したものである。録音は2003年3月にケルンで行われた。ピッチや音律については、何も記されていない。このCDは、現在も入手可能である。

発売元：Harmonia mundi France

注）この CDに収録の作品については、添付の小冊子のアンドレアス・フリーゼンハーゲンによる解説を参考にした。アンドレアス・シュタイアーについては、自身のウェブサイトを参考にした。


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