私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Antonio Vivaldi: Concertos for Violin, Strings and Continuo
Archiv Produktion 00289 477 6005
演奏:Giuliano Carmignola (violin), Venice Baroque Orchestra, Andrea Marcon

アントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Lucio Vivaldi, 1678 - 1741)は、およそ500曲の協奏曲を作曲し、その内240曲あまりがヴァイオリンを独奏楽器としている。出版された「調和の幻想」(作品3)や「和声と想像の試み」(作品8)などに含まれる76曲以外は、個別の手稿で残されており、その殆どの作品は、20世紀になって発見された。
 今回紹介するCDは、「世界初録音」を謳っているが、実際には頻繁に演奏される作品は限られており、未だ演奏されたことのない作品の方が圧倒的に多いと思われるので、それほど珍しいことではない。
 出版された曲集に含まれる作品は、形式的に整った、独奏と伴奏のバランスが取れたものが多いのに比較すると、個々に手稿で残された作品は、一般的に言って、ヴァイオリンの演奏技巧を披露する曲が多いように見受けられる。これらの協奏曲は、教会における式典や演奏会、劇場、時には野外で演奏された。しかし、演奏された年月日や機会がはっきりしている作品は限られている。以前に「華麗なヴァイオリン独奏を含むヴィヴァルディの祝祭のための協奏曲」で紹介したヴァイオリン協奏曲ニ長調(RV 212)のように、 パドゥアの聖アントニオ教会における、「聖アントニオの聖舌の移動の祝典」(1712年2月15日)で、ヴィヴァルディ自身の独奏ヴァイオリンで演奏されていることが分かっている作品も少数ながらある。
 今回紹介するCDに収録されている5曲の協奏曲については、この様な作曲あるいは初演の時期は分かっていない。CDに添付の小冊子に掲載されているオリヴィエ・フーレイの解説では、オペラとの主題の類似性から、ニ長調の協奏曲(RV 217)を1727年頃、ハ長調の協奏曲(RV 190)を1735年頃とするなど、様式批判の手法で作曲年を推定しているが、この方式が作曲年判定の有効な手段であるかどうかは、明らかでない。ヴィヴァルディの作品研究は、未だ充分に行われているとは言えず、作曲年判定は、今後の問題と言える。このCDに収録されている5曲については、1720年以降の作というのが、一般的な見方のようで、ヴィヴァルディの円熟期の作品と考えて良さそうである。いずれの曲も、先に触れた協奏曲ニ長調(RV 212)のような独奏ヴァイオリンの大規模な技巧の展開はなく、合奏と独奏のバランスが良く取れている。
 ヴァイオリン独奏のジュリアーノ・カルミニョーラは、トレヴィソ生まれのイタリアのヴァイオリニストで、当初モダン楽器で独奏者として活動を始め、次第にオリジナル楽器による演奏に重点を置くようになり、イギリスのアカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックやイタリアのヴェニス・バロック・オーケストラとの共演を行うとともに、クラウディオ・アッバードとボローニャに拠点を置くオーケストラ・モーツァルトとのモーツァルトのヴァイオリン協奏曲の3年間にわたる演奏会シリーズを行うなど、活発に活動をしている。これまで、エラートやディヴォックス・アンティクア、ソニー等のレーベルに録音していたが、現在はドイツ・グラモフォンと専属契約を結んでいる。
 ヴェニス・バロック・オーケストラは、1997年に音楽学者でチェンバロ奏者のアンドレア・マーコンによって設立され、オリジナル楽器のオーケストラとして活動している。このCDでの編成は、第1、第2ヴァイオリン各4,ヴィオラ2、チェロ2、ヴィオローネ1、それにリュートとチェンバロの計15人と言うやや大きめの編成である。
 録音は、2006年1月に北イタリアの南チロル地方のドッビアコで行われた。演奏のピッチは a’ = 440 Hzのヴェネツィアン・ピッチである。

発売元:Deutsche Grammophon, Archiv Produktion

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