私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 



Antonio Vivaldi, Concerti per le Solennita
DIVOX ANTIQUA CDX-79605
演奏:Giuliano Carmignola (Violino principale), Sonatori de la Gioiosa Marca

少し前になるが、ヴェネツィアに行ったとき、リアルト橋の近くにあるサン・バルトロメオ教会で行われたコンサートに行った。演奏はInterpreti Venezianiというモダン楽器の室内楽団で、12名からなっていた。曲目は、ヴィヴァルディのほかドラゴネッティとアルビノーニの作品を含む、ヴァイオリンばかりではなく、チェロやコントラバスを独奏にした曲を含む多彩なものであった。それほど大きくない教会堂の良く響く空間での演奏会は、大いに楽しめた。この演奏会の最後に演奏されたヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲は、ヴァイオリンの技巧的で華麗な独奏を含んでいた。特に第3楽章の後半で、合奏が休止する中、ヴァイオリンが派手に独奏を展開する、カデンツァのような部分があり、強く印象に残る演奏であった。
 帰国後、この曲が収められたCDを探して見つけたのが、ここで紹介するものである。そのときの演奏会の最後に演奏された曲は、このCDの最初に収められている、パドゥアの聖アントニオ教会における、「聖アントニオの聖舌の移動の祝典」(1712年2月15日)で、ヴィヴァルディ自身が独奏ヴァイオリンを演奏した協奏曲ニ長調(RV 212)である。この曲と様式的に非常によく似た曲に、このCDの最後、6曲目の「ムガール大帝(Grosso Mogul)」という標題で知られる協奏曲ニ長調(RV 208)がある。この標題は、ドイツのシュヴェーリンにある写譜にのみ記されたもので、自筆譜には”LDBV”と言う略号だけが記されている。CDに添付されている冊子のGiorgio Faveの解説によると、この曲は、1713年6月18日にヴィツェンツァの聖コロナ修道院で行われた祝祭の時に、ヴィヴァルディ自身のヴァイオリン独奏で演奏されたのではないかと記されている。なお、この「ムガール大帝」協奏曲は、aeternitasさんのブログ「一日一バッハ」の10月12日号 で紹介されている。そこで紹介されているように、この曲は、バッハがオルガンの為に編曲している(ハ長調、BWV 594)。
 この2つの協奏曲が作曲、初演されたのとほぼ同時期、1712年には、協奏曲集「調和の幻想」(作品3)と「ラ・ストラヴァガンツァ」(作品4)がアムステルダムのローハー社から出版されている。これらの曲集では、整った形式の作品を作曲する一方で、祝祭的な機会に応じた華やかな曲を作曲、演奏していたことになる。
 3曲目の「聖ロレンツォの祝祭のための」協奏曲へ長調(RV 286)は、比較的控えめな様式の作品である。この作品は、1727年の聖ロレンツォ祭(10月8日)にヴェネツィアの聖ジオヴァンニ・エ・パオロ教会で演奏するために作曲されたようだ。4曲目と5曲目の「聖母昇天の祝日(8月15日)のための」協奏曲は、ともにヴィヴァルディが度々楽長を務めた、ヴェネツィアのピエタ慈善院の礼拝堂で演奏するために作曲された、2つの合奏体と独奏ヴァイオリンのための協奏曲である。この礼拝堂には、1724年に木造の2つの合唱隊席が設置され、1735年には2台目のオルガンも建造された。ニ長調(RV 582)は通奏低音は一組のみで、おそらく1735年以前、ハ長調(RV 581)は通奏低音を含んだ2組の合奏団からなっていて、この2台目のオルガンが完成した後に作曲されたようだ。様式はいずれも、「聖アントニオ・・・」や「ムガール大帝」に比べれば控えめだが、同じく技巧的なカデンツァを第3楽章に持っている。ハ長調の曲の方が、2つの合奏体の対比がより明瞭である。
 これに対して2曲目の「聖夜のための」協奏曲ホ長調(RV 270)は、全曲を通して弱音器付きの弦楽器によって、通奏低音の鍵盤楽器抜きで演奏される、独特の雰囲気を持った作品である。第2楽章のアダージョは、非常に短い曲だが、曲想が「四季」の「秋」の第2楽章によく似ている。作曲されたのは1720年代であろうと思われる。
 演奏しているSonatori de la Goiosa Marcaは、ヴェネツィアの北約25キロのところにある、15世紀以来ヴェネツィア領であった町トレヴィソで1983年に結成された、オリジナル楽器によるバロック音楽演奏の楽団である。ヴェネツィア領のことをMarcaと言い、Goiosaは「楽しい」とか「陽気な」の意味、Sonatoriは音楽家達の意味である。独奏ヴァイオリンを担当しているGiuliano Carmignolaもトレヴィソの出身で、Sonatori de la Goiosa Marcaとは、他にヴィヴァルディの「四季」などの録音でも共演している。彼らの演奏は、最近のイタリアのバロック・アンサンブルに共通する、溌剌とした歯切れの良いものである。宗教的祝祭のための曲であることから、通奏低音には、チェンバロではなく、オルガンが使用されている。録音は、トレヴィソの聖ヴィグリオ教会で1996年9月に行われた。教会らしい残響の長い豊かな響きでありながら、独奏ヴァイオリンは明瞭に聞こえる。
このCDを発売しているDIVOXは、スイスのレーベルで、DIVOX ANTIQUAは、オリジナル楽器によるバロックおよびそれ以前の時代の音楽を紹介するシリーズである。

発売元:DIVOX

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コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
参考になりました (aeternitas)
2007-11-08 13:07:10
わたしのところのブログとちがい、内容が濃くてさすがですね。参考になりました。
 
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