私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Mozart: Piano Concertos No. 22, K482 & No. 23, K488
L’Oiseau-Lyre 452 052-2
演奏:Robert Levin (fortepiano), The Academy of Ancient Music, Christopher Hogwood

以前にも述べたように、モーツァルトのピアノ協奏曲は、第27番まであるが、その内7曲は他の作曲家のソナタの楽章を編曲したもので、実際にモーツアルトが作曲したのは23曲、第5番から27番までである。その内第11番(KV 413 [387a])から第25番(KV 503)までの15曲は、1782年から1786年の5年間に作曲されている。第15番以降のピアノ協奏曲は、自らピアノを担当する演奏会のために作曲された。
 ピアノ協奏曲第22番変ホ長調(KV 482)は、第20番、第21番とともに1785年に作曲され、同年12月にディッタースドルフ(Johann Carl Ditters von Dittersdorf, 1739 - 1799)のオラトーリオの間に演奏されたのが初演となるが、本来は同時期の他のピアノ協奏曲同様、自らの演奏会のために作曲された。オペラ「フィガロの結婚」(KV 492)も同時期に作曲されている。モーツァルトのピアノ協奏曲の中で、クラリネットを編成に加えた最初の作品で、第20番以降の「交響的協奏曲」に属している。そしてモーツァルトの協奏曲の中で、最も長い曲である。第1楽章は、オーケストラによるファンファーレのような楽句で始まる。長い序奏のあとピアノが加わり、冒頭の第1主題、その後の第2主題、第3主題を展開して行く。長いピアノのカデンツのあと、輝かしい和音で終わる。第2楽章は、ハ短調で、ロンド形式と変奏曲が組み合わされている。第3楽章は6/8拍子のロンド形式で、ピアノ独奏で始まる。途中に長いアンダンティーノの間奏が挿入される。この間奏は、クラリネットの美しい旋律により始まり、独立した楽章のようである。
 ピアノ協奏曲第23番イ長調(KV 488)は、1786年3月2日に完成した。自筆譜に使用されている用紙などから、実際には1783年から1785年の冬にかけて作曲を始めたものと思われる。この協奏曲に於いては、ピアノのパートが始めから細部に至るまで入念に仕上げられており、第1楽章のカデンツァも完全な形で書かれており、第3楽章には即興を挿入する余地を与えていない。このことによって、この協奏曲は、古典派のピアノ協奏曲に最高峰にある作品の一つと評価されている*。
 今回紹介するCDは、ロバート・レヴィンのフォルテピアノ、クリストファー・ホグウッド指揮のアカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックの演奏によるオアゾ・リール盤である。ロバート・レヴィンは、1947年アメリカ生まれのピアニスト、音楽学者、作曲家である。当初は作曲を主体とし、その一環としてモーツァルトの「レクイエム」の未完部分の作曲、多くの協奏曲のカデンツァの作曲、モーツァルトの未完の作品の作曲などを行い、「レクイエム」の完成版は、1991年8月シュトゥトガルで開催されたヨーロッパ音楽祭で、ヘルムート・リリンクの指揮で演奏された。ピアニストとしては、演奏会では通常モダン・ピアノを演奏しているが、モーツァルトのピアノ作品の録音ではフォルテピアノを演奏している。音楽学者としては、主としてモーツァルトの作品についての論文を発表している。レヴィンは現在、ハーヴァード大学の教授でもある。レヴィンが演奏しているフォルテピアノは、1795年頃にヴィーンのアントン・ヴァルターによって制作された楽器を1985年にフランス、ソーン=エ=ロワール県のクリュニーのクリストファー・クラークが複製したものである。
 クリストファー・ホグウッドとアカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックについては、これまでに何度も紹介した。なお、ホグウッドは現在アカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックの音楽監督をリチャード・エガーに譲り、自由な立場で活動している。
 録音は1995年8月にロンドンで、一連のモーツァルトのピアノ協奏曲のシリーズの一環として行われた。このCDに限らず、オアゾ・リールの一連の録音は、細部の繊細な音を良くとらえており、オーケストラの臨場感、ピアノとのバランスも非常によい。演奏のピッチは、a’ = 430 Hz である。なお、現在このCDを始め、オアゾ・リール・レーベルの同じ演奏者によるモーツァルトのピアノ協奏曲や交響曲のシリーズは、残念ながらほとんど廃盤となっている。

発売元:Decca Classics

* 協奏曲第23番の成立過程については、日本語版のウィキペディア「ピアノ協奏曲第23番(モーツァルト)」を参考にした。

注)モーツアルトのピアノ協奏曲を紹介した記事は他に「モーツァルトの最後の協奏曲、バセット・クラリネットのための協奏曲とピアノ協奏曲第27番」、「モーツァルトのピアノ協奏曲第20番と21番をオリジナル編成で聴く」、「モーツァルトのピアノ協奏曲第24番と25番をオリジナル編成で聴く」、「モーツァルトのピアノ協奏曲第26番と27番をオリジナル編成で聴く」がある。

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