私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Henry Purcell: Music for Queen Mary
Erato ECD 88071
演奏:Felicity Lott (soprano), Charles Brett, John Williams (couter-tenors), Thomas Allen (bass), Monteverdi Choir, Monteverdi Orchestra, Equale Brass Ensemble, John Eliot Gardiner (Conductor)

バロック時代イギリス最大の作曲家ヘンリー・パーセル(Henry Purcell, 1659 (?) - 1695)については、すでに「パーセルの鍵盤楽器のための音楽をオリジナル楽器で聴く」や「バロック時代のトリオソナタを聴く:(4) ボノンチーニとパーセルのトリオソナタ」等でその生涯、作品を紹介してきたが、王室礼拝堂に属するジェントリーであった父ヘンリーは1664年に死亡し、他の兄弟とともに叔父の元で成長し、ヘンリーも早くから音楽教育を受け、1676年にはウェストミンスター・アベイのオルガニストに任命された。1669年以来ウェストミンスター・アベイのオルガニストであったジョン・ブロウ(John Blow, 1649 – 1708)が、後進に道を譲るために引退した後、ヘンリー・パーセルは、アンセムなど宗教音楽の作曲に専念するようになる。1682年には、王室礼拝堂のオルガニストも兼任することになった。オペラや劇音楽の作曲を始めるのは、1680年代終わり頃からである。そして、音楽家として正に脂が乗ってきた1695年に、36歳の若さで急死してしまう。
 今まで紹介したパーセルの作品は、鍵盤楽器のための作品や器楽曲であったが、作品全体を見渡すと、圧倒的に声楽曲が多い。その内訳は、「ディドとエアネス(Dido and Aeneas)」(Z 626)を始めとする7曲のオペラ、43曲の劇付随音楽をはじめ、頌歌(Ode)、歌曲(Song)、キャッチ(Catch)と言うカノンの一種など、それに宗教的な作品として、礼拝音楽(Service)、アンセム(Anthem)、聖歌(Hymn)等がある。
 今回紹介するCDは、これらの声楽曲の内、イギリス女王メアリーII世(Queen Mary II, 1662 - 1694)の誕生日ための頌歌「来たれ、なんじら芸術の子よ(Come, ye Sons of Art)」(Z 323)と「メアリー女王の葬儀のための音楽(Music for the Funeral of Queen Mary)」( Z 860)の2曲を収録したエラート盤である。前者は1694年、後者は1695年といずれもパーセルとしては晩年の作品である。
 頌歌は、本来詩の形式であるが、その詩に基づく声楽曲の名称としても用いられる。パーセルのこの作品は、第1楽章序曲と8曲の声楽曲からなり、第2楽章はカウンター・テノール独唱と合唱、第3楽章はカウンター・テノールの二重唱、第4楽章は合唱、第5楽章はカウンターテノールとフルート、第6楽章はバス独唱と合唱、第7楽章はソプラノとオーボエ、第8楽章はバス独唱、第9楽章はソプラノとバスの二重唱と合唱である。こういう楽章構成を見ると、レシタティーフはないが、ドイツに於けるマドリガル形式の詩によるカンタータによく似ている。
 1694年12月28日に死亡した英国女王メアリーII世(Mary II of England, 1662 - 1694)の葬儀のために、パーセルは「メアリー女王の葬儀のための音楽」(Z. 860)を作曲し、この曲は葬儀に於いて演奏された。しかし、葬儀に於いて演奏された作品の詳細は、自筆譜が無く、パーセルによる記述もないため、正確には分かっていない。歌詞は英国国教の祈祷書より採られ、音楽のほとんどは、既存の曲が流用された。曲は、金管楽器とティンパニで演奏される行進曲が冒頭と終曲を成し、3節の合唱にはオルガンの通奏低音が付く。その3曲の合唱の間には、カンツォーナと題する金管楽器による一種の間奏曲が奏される。
 これらの作品、特に後者の葬儀のための音楽は、宗教的行事のための音楽と考えられ、少年合唱団など、男声のみで演奏された可能性がある。この点を明確にしようと努力したが、現時点では確認出来ていない。
 ジョン・エリオット・ガーディナー(Sir John Eliot Gardiner)は、1943年生まれのイギリスの指揮者で、ブライアンストン・スクールからケンブリッジ大学キングスカレッジに進み、大学時代の1964年にモンテヴェルディ合唱団を創立した。1968年にはモンテヴェルディ・オーケストラを創設した。このオーケストラは、モダン楽器編成であったが、1977年にオリジナル楽器編成のイングリッシュ・バロック・ソロイスツに改組された。ガーディナーは、ケンブリッジのキングス・カレッジを卒業した後、ロンドンのキングス・カレッジで、サーストン・ダート、ナディア・ブーランジェに学んだ。1969年には、イギリス国立歌劇場でモーツァルトの「魔笛」を指揮してオペラ指揮者としても活動を始め、フランスのリヨン国立歌劇場など活動を拡げていった。1990年には、オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティークを組織し、19世紀の音楽の演奏を行うようになった。永年ガーディナーの指揮の下で活動しているモンテヴェルディ合唱団は、非常に優れた合唱団として定評がある。
 今回紹介するパーセルのメアリー女王のための音楽の録音は、1976年2月にロンドンで行われ、オーケストラはモンテヴェルディ・オーケストラである。通奏低音のチェンバロは、トレヴァー・ピノックが演奏している。さらに金管楽器の演奏には、イクエール・ブラス・アンサンブルとして、トランペット2、ザックバット2、ティンパニ1が加わっている。元の音源はアナログ録音である。なお、この録音は、現在0745099655327の番号でワーナー・クラシックスからエラート・レーベルで販売されている。

発売元:Erato - Warner Classics


0745099655327

注)ヘンリー・パーセルについては、ウィキペディア英語版の”Henry Purcell“、「来たれ、なんじら芸術の子よ」については、同じくウィキペディア英語版の”Come, ye Sons of Art”、「メアリー女王の葬儀のための音楽」については”Music for the Funeral of Queen Mary“を参考にした。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
クラシック音楽鑑賞をテーマとするブログを、ランキング形式で紹介するサイト。
興味ある人はこのアイコンをクリックしてください。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« モーツァルト... バッハの「ア... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。