死者たちが雪を見に来ている。彼らは肉体がないから、バスも電車も要らない。見に行こうと思えば、雪降る美しいふるさとにすぐ来れる。空からではよく見えないので、きっと地上に立って見ているはずだ。(彼らは肉体はないが、あったころの残像があるので、立った姿勢も取れる)
わたしたちは寒いけれども、彼らはもう寒さも感じていない。でも、冬にふさわしい衣服は身につけている。目が、「ああ、きれいだきれいだ」「わたしたちが生きた地上というのはこんなにも美しいところだったのか」と言って、目をくりくりさせている。隣の人もその隣も、そのまた隣の人も。
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死者の居るところは遠いところのようで、遠くないのかもしれない。何処にだっていられるんだから。そういう自由な身分を獲得しているんだから。美しいものばかりを見るという特権も取得しているんだから。正午を過ぎた。雪の降る量はしだいに少なくなっている。
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