一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております 山崎方代(やまさきほうだい)
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どうしてだけわからない。この歌に初めて出遭ったときに、どぎまぎした。ここから容易に抜け出していけなかった。捕まってしまった。どうしてだかわからない。今でも説明が付かない。でも直感がこれを秀歌にしている。秀歌だとか名歌だといういう範疇を離れたところで、この歌は僕を虜にしている。
作者がどんな人物でどんな境遇に置かれている人なのかもまったく知らなかった。あとあと、彼が破天荒な生き方をしていた人物だということを知った。南天の実が知っているという彼の本当の恋。一度だけだというからその他の時間はそんなこととは無関係な暮らしをしていたというのだろうか。
一度だけでいいから本当の恋というものがしてみたいという願望、万人にその願望があるをちゃんとわきまえていて、それを錦の御旗に見立てて勝ち戦を目論んだだけなのかも知れない。それにしてもなぜ、そしてどうやって人間の本当の恋というものを身動きも出来ない庭の南天が嗅ぎ付けたのだろうか。生き証人になどなれるはずもないのに、それがいかにも真実めいて聞こえてしまう。
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