能楽の心と癒しプロジェクト
第9次(注1)被災地支援活動(2012年8月10日~13日)
第9次(注1)被災地支援活動(2012年8月10日~13日)
〔活動報告書〕
【趣旨】
東日本大震災被災地支援を目指す在京能楽師有志「能楽の心と癒しプロジェクト」の4名(※注2)は、能楽の持つ邪気退散、寿福招来の精神を被災地に伝えるべく、すでに2011年8月15日、9月26日~30日、12月24日~2012年1月1日、2月10日~13日、3月9日~12日、5月2日~4日、6月18日~21日の7度に渡り岩手県釜石市、宮城県石巻市、気仙沼市、南三陸町、仙台市および大崎市にて能楽を上演することによって被災者を支援する活動を行って参りましたが、このたびメンバーの八田・寺井とゲスト出演のワキ方・野口能弘氏、太鼓方・大川典良氏は、去る8月10日より13日の4日間に渡り宮城県・石巻市および気仙沼市の計6カ所にて能楽の上演を行いました(※注3)。
とくに今回は、石巻市の災害FM「ラジオ石巻」への出演、石巻市雄勝町での自主公演、石巻市・気仙沼市で夏祭りの花火大会への出演が実現し、これまでにない大きな成果を挙げることができました。また今回はかねてプロジェクトの活動を応援してくださっている石巻市民の相澤利喜子さんが石巻市での活動に参加してくださったばかりか、雄勝町での活動を企画してくださいました。気仙沼市での活動では毎度お世話になっている児童劇団「うを座」のみなさん、5月の活動を出発点として我々の活動を応援してくださる大島のみなさんのご協力をもって活動が実現致しました。石巻市については、もう1年以上我々の活動を支えてくださっている観光協会、商工会、チーム神戸のほか、2月の活動から知遇を得ました住民ボランティア藤田利彦さんなど、多数の方々のご協力を得ることができました。さらには東京近郊から写真家のYさん、活動のお手伝いにボランティア支援者の河向貴子さんが同行して頂き、大変大きな功績を挙げてくださいました。そのほか 伊豆の国市子ども創作能の保護者さまより多数の支援物資を提供頂き、雄勝町・女川町にお届けすることができました。併せてご報告申し上げます。
※注1 プロジェクトの発足は3011.8.15の活動後でありますが、前回より2011.6.29~7.2まで八田が石巻市で行った活動まで遡って活動歴と数える事に致しました。
※注2 プロジェクトメンバーは八田達弥(シテ方・観世流)、寺井宏明(笛方・森田流)、大蔵千太郎(狂言方・大蔵流)、小梶直人(同)の4名。ただしスケジュールの都合により狂言方2名は今回は欠席。
※注3 今回の上演場所は①石巻市・ロマン海遊21②石巻市雄勝町・大須小学校③石巻市雄勝町・旧総合支所前④気仙沼市・復興商店街南町紫市場⑤気仙沼市大島・大島神社⑥気仙沼市・浦の浜の6箇所。このほかラジオ石巻への出演があった。
【活動記録】
8月10日(金)
八田・寺井 終夜走行にて早朝石巻に到着。住民ボランティアさんのご厚意により休憩を取らせて頂き、午後より活動開始。相澤利喜子さん、河向さんと合流ののち「ラジオ石巻」の番組「復興へ1・2・3はつらつラジ石ワイド」に出演。
ラジオ出前後に相澤さん・Kさんに能『松風』の後見の稽古。夕方よりロマン海遊21にて「能楽の心と癒やしをあなたに」公演。能『松風』の一部を上演。後見=相澤氏・河向氏。終演後夕食を摂っているところにワキ方野口能弘氏到着。能楽師3人は住民ボランティア藤田さん宅に投宿。
8月11日(土)
早朝起床して、相澤さん・河向さんとともに雄勝町へ。午前11時より市立大須小学校にて「能楽の心と癒やしをあなたに」公演。能『松風』の一部を上演。当該公演は雄勝町での初めての活動であると同時に、6月に石巻市で開催した「星と能楽の夕べ」以来の自主公演。公演に併せてバザーを開き、静岡県・伊豆の国市の「子ども創作能」の保護者さまなどより頂戴した扇風機3台ほか支援物資を住民さんに持ち帰って頂いた。
夕方、雄勝町の旧総合庁舎前へ移動、「おがつ花火大会」の関連イベントに参加。能『羽衣』の一部を上演。終演後花火大会を鑑賞して石巻市内に戻り、前日と同じく藤田さん宅に投宿。。
8月12日(日)
気仙沼市へ移動。途中、前回6月の活動のあと丁寧なお礼状を頂いた女川町の仮設住宅の住民さんを表敬訪問。大変お喜び頂き、次回の公演を約束して辞去。志津川など視察しながら気仙沼に到着、宿所をご提供頂いた島田呉服店さまにご挨拶ののち南町紫市場へ。
この日気仙沼市では年で一番大きなお祭り「みなとまつり」の最中。やがて太鼓の大川典良氏も到着、午後4時頃紫市場の仮設ステージにて能『菊慈童』を上演。終演後は島田呉服店さまのご厚意により夕食をごちそうになったうえ入浴までお世話になる。八田と大川氏は復興した市内の銭湯「亀の湯」さんに入浴に行き、少々被災地区も視察。
8月13日(月)
朝、これまた島田呉服店さまのご厚意により朝食をごちそうになり、お礼にご主人さまほかに簡単な囃子のレクチャーを体験して頂く。それより気仙沼の被災地区を視察。フェリーにて気仙沼大島に渡る。
大島・浦の浜にて菅原さんはじめ関係者と打合せ。その後菅原さんのお計らいで軽自動車を貸与されこれは以後もっぱら八田が運転して大川氏とともに使わせて頂くこととなった。菅原さん送迎、および八田運転軽自動車にて大島神社に移動。午後2時より大島神社にて謡および舞の奉納。独吟『鷺』野口能弘、舞囃子『養老』八田達弥・寺井宏明・大川典良ほか。
終演後、大島神社宮司さま宅にてしばし休憩。八田と大川氏は軽自動車にて島内視察。寺井・野口氏も宮司さま案内にて別に島内を視察に。
夕方7時すぎ、浦の浜にて「大島浦の花火」に付随して能『羽衣』の一部を上演。上演は路上であったがお客さまの注視、雰囲気の良さ、どれを取っても最高の状態の中での上演に感激。
終演後は本土とを結ぶ定期航路はすでに終了していたため臨時船「ひまわり」にて気仙沼市内に帰る。島田呉服店さまの相も変わらぬご厚情にて入浴させて頂き、寺井・野口氏はそのまま東京に帰り、八田と大川氏はこの夜も島田呉服店さまに投宿。
8月14日(火)
八田と大川氏はこの日に活動を終了、それぞれ被災地視察を兼ねながら帰宅。
【収入・支出】
プロジェクトの活動は基本的に募金によって行われております。募金は基本的にプロジェクトのボランティア活動資金(以下「ボラ」)として使わせて頂きますが、とくに被災地への直接支援を目的にプロジェクトに寄せられた義援金(以下「ギエ」)はプロジェクトとして支援するのに然るべき団体。。被災地に拠点を置き、直接被災者の支援活動に従事することを目的とした、非営利で公明正大な活動が長期に渡って期待できる、信頼すべき団体に寄付させて頂きます。
今回は活動に先立つ8月3日に佐藤仁重さまによる「全日本写真連盟 東京・女性支部 第35回女性だけの写真展」のオープニング・パーティーに八田がお招きを頂き、出演させて頂いた代わりに、プロジェクトの活動について講演をさせて頂き、出席者には募金箱による寄付をお願いさせて頂きました。その結果 募金総額は 74,804円となりました。
これにより今回の活動資金は前回活動繰越金 113,092円(内訳:ボラ 80,592円 ギエ32,500円)、および募金箱への寄付 74,804円(ギエ)=合計187,896円(ボラ155,396円 ギエ32,500円)となりました。
頂いた募金の使途につきましては別紙「決算報告書」にて改めてその内訳を明示致しますが、今回の活動終了時で残額 103,371円(内訳:ボラ 70,871円 ギエ32,500円)となっております。これらは今回の活動繰越金として次回活動の資金として有効に使わせて頂きます。関係者各位に対し、厚く御礼申し上げます。
これに対してプロジェクトの訪問公演の支出につきましては節約を旨としております。交通費につきましては高速道路の通行料、ガソリン代の全額をプロジェクトの負担としておりますが、交通費節約のため、できるだけ深夜割引の制度を利用して終夜運転をして早朝に現地に到着するようにしました。
宿泊につきましても住民ボランティアさまのご厚意により石巻市内被災地区のお宅に計2,000円にて寄宿させて頂いたほか気仙沼では島田呉服店さまに無料で泊めて頂きました。
これにより今回も支出の内訳は公演の宣伝ポスターの印刷費、記録用ビデオテープ購入といった事務雑費のほかはもっぱら交通費と多少の宿泊費に限られることとなりました。
前述の通り収支差額として 103,371円(内訳:ボラ 70,871円 ギエ32,500円)が出ました。これは今後の被災地訪問の活動資金として活用させて頂きます。前述の通り今後の活動には資金的に困難な状況が予測されます。引き続きまして活動支援をお願い申し上げる次第です。
【成果と感想・今後の展望】
プロジェクトとして第9次となる今回の支援活動では、大変目立った活動ができたと思います。まずもって石巻市の「ラジオ石巻」へ出演させて頂いたことで、プロジェクトの活動の主旨などを石巻市民に広くお知らせする機会となりました。当初知らされていた出演時間を大幅に超えての出演となり、謡と笛の実演も行うなど、プロジェクトの活動の内容として、これまでとは一線を引くほど大きな宣伝の手段となりました。
石巻雄勝町では、ここも初めて公演する町でしたが、夏休み中にもかかわらず公演会場を大須小学校さまにご提供頂きました。雄勝町の大須地区は、これまでプロジェクトの活動にずっと協力してくださっている石巻市民の相澤利喜子さんの出身地で、相澤さんはかねてより当地でのプロジェクトの活動を希望しておられたことから、この度のプロジェクトの自主公演の実施となりました。学校との交渉、現地でのチラシ類の配布宣伝など、相澤さんには絶大なご協力を頂くことで実現できた催しです。市民の企画によって活動ができたのも、また新しい活動の局面と考えております。
また、能の上演に付加価値をつけること---炊き出しを行う団体との共同の活動などは かねて考えていたところで、何度か実現もしたことがありましたが、この大須小学校での活動では静岡県伊豆の国市で八田が長年指導を続けている「子ども創作能」の出演児童の保護者や、またこの日同行してくださった写真家Y氏より多くの支援物資の提供を頂き、扇風機・日用品・玩具などを住民さんに配布する「バザー」を行うことができました。
また雄勝町では「おがつ花火大会」という夏祭りの関連イベントへの出演を実施しました。今回はプロジェクトが活動した雄勝町と気仙沼市、気仙沼大島の3カ所すべてで夏祭りが開催されており、そのため今回は仮設住宅での活動は行いにくく、反面、これら夏祭りのイベントへの出演という形での活動が主体となりました。
これらの各地の夏祭りは、昨年は震災の直後にあたって軒並み中止となっていたものが、支援団体などの後押しを受けて復活したものばかりです。言うなれば復興のひとつの象徴のイベントであり、同時にお盆の季節にもあたって鎮魂の祈りも込められた催しが各地で開かれました。このような意義深い夏祭りに参加できたことはプロジェクトにとっても幸福なことと言えましょう。
石巻から気仙沼への移動の途中には女川町の仮設住宅の住民さんを表敬訪問致しました。じつは6月の第8次活動の終了後、この仮設住宅の住民さんより大変心のこもったお礼状を頂きました。お礼状には感激致しましたが今回の活動のスケジュールはすでに組み上がる頃のことで、女川町で活動をする時間的な余裕はなく、やむなく表敬訪問となりましたが、住民さんには大変喜んで頂き、これが10月の第10次支援活動(現時点ですでに実施済み)につながることになりました。
気仙沼市では町を挙げて「みなとまつり」が開催中でしたが、こちらも毎度お世話になっております仮設商店街の南町紫市場さんのイベントに出演させて頂くことができました。このイベントへの出演、また宿泊に至るまで、すべて気仙沼の児童劇団「うを座」の関係者のみなさまにひとかたならぬご支援を賜りました。「みなとまつり」の開催中のため関係者にはほとんどお会いすることが出来ませんでしたが、改めまして深謝申し上げます。
気仙沼大島での活動はプロジェクトメンバーの寺井宏明が関係者とすべての打合せを整えてくれました。横浜を本拠地に各地で海底清掃などのボランティア活動を展開している「海をつくる会」の活動への参加からから出発した大島での活動ですが、同会のご理解を頂いて、今回はプロジェクトとして独自の活動となりました。
前回と同じく大島神社に参詣して独吟と舞囃子を奉納させて頂きましたほか、大島でもこの日「大島浦の花火」が開かれており、そこでの能の上演を行いました。花火大会の関連イベントは我々プロジェクトの上演だけで、津波被害により壊滅した浦の浜に集った住民さんの前での能の上演、続いて花火打ち上げの鑑賞は大変感慨深いものになりました。
一方、今回の活動では写真家のYさん(匿名を希望)が石巻で撮影に参加してくださり、石巻では相澤利喜子さんが公演の際に後見として出演してくださいました。また石巻のボランティア団体を支援している河向貴子さんは全行程でプロジェクトに同行頂き、写真撮影に、公演の後見のお手伝いに、と活躍してくださいました。多方面でのご支援を頂いてプロジェクトの活動は実現できております。この度のご協力にも深く感謝申し上げます。
また出演者につきましては、今回はシテ方・笛方のプロジェクトメンバー二人のほか、ワキ方の野口能弘氏、太鼓の大川典良氏がゲストとして参加してくださいました。これも過去に例を見ない人数での上演となり、本格的な能の上演に近い形での活動ができました。とはいえ、ワキの野口氏には、会場設備や上演時間の制約から出演頂けない場面も多かったのです。また野口氏は前回プロジェクトの活動に参加してくださった際の様子から、仮設住宅などでのワークショップでもとても興味深い活動を期待できたのですが、あいにく現地が夏祭りの最中で、仮設住宅での活動が実現できなかった事も残念でした。事情により仕方のない事ではありますが、野口さんの力を最大限に引き出すことが出来なかった事が心残りではあります。
今回のゲスト能楽師 野口能弘氏、大川典良氏は八田とともに かつて学校公演で石巻と気仙沼を訪れた事があります。東日本大震災のあと八田が支援活動を始めたのも原点はその学校公演で出会った子どもたちに抱いた好印象があったからで、野口、大川両氏も同じ思いを抱いてプロジェクトの活動に参加してくださいました。両氏ともスケジュールが許せば今後とも活動に協力、同行する事を申し出てくださっております。ハードスケジュールの中での奉仕の姿勢、献身的なご協力に心より御礼を申し上げます。
夏祭りの時期の被災地訪問は、復興のひとつの到達点でもあろうと思い、それ自体は大変喜ばしく、プロジェクトメンバーとしても感慨深い公演活動となりました。しかし一方、夏祭りのおかげで巡回することができなかった仮設住宅の現状がどうなっているのか、復興の進捗の真の部分は、今回は見えなかったのかもしれません。これからもプロジェクトは息長い活動を続けてゆければ、と考えております。
平成24年10月29日
「能楽の心と癒しプロジェクト」
代表 八田 達弥
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