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ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

展覧会「鳥獣戯画がやってきた!」

2007-11-09 01:13:06 | 日本文化
今日はサントリー美術館で催されている展覧会「鳥獣戯画がやってきた!」を見に行ってきました。

へえ?サントリー美術館って、赤坂見附にあったのに、いつの間に六本木に移転したので? しかし今回の「鳥獣戯画」展は同美術館の開館記念特別展ということでした。そうだったんですか~。で、はじめて行ってみた移転・新装オープンしたばかりのサントリー美術館は、六本木にこの春開業した「東京ミッドタウン」の3階と4階の一部のスペースにありました。う~ん。。狭い。。展示スペースは ごくごく控えめで、岡山の林原美術館の方がまだいくらか広いのではなかろうか。。東京の過密状態じゃ仕方がないのかなあ。

それでも今回の「鳥獣戯画」展は じつに見応えのあるものでした。

え~じつは ぬえは「鳥獣戯画」の本物を見るのは今回が初めてでして(恥)。。たとえば「平家納経」であれば、2~3巻はしばしば展覧会で公開されたりする事もあって、ぬえもこちらならば2度かそこいらは拝見した覚えがあります。大正時代に作られた あの美麗で精緻なレプリカならばもっと多い回数で見たことがあるでしょう。でも、意外や「鳥獣戯画」が展覧会で公開されるのは、少なくとも東京では稀なことだったのではないかと思います。ぬえも「鳥獣戯画」の公開には割と気を付けてチャンスを窺っていたつもりだったので。。

今回はなんと「鳥獣戯画」甲・乙・丙・丁の全巻が一堂に展示され、しかも前期/後期の展示替えで全容が公開されるという豪華さ。しかも各地に伝わる断簡や古模本を同時に展示することで、現「鳥獣戯画」が欠落や錯簡で本来の姿を大きく変えてしまっている事を知ったり、その欠落部分に何が描かれていたのかを想像する事ができます。併せて展示されている「鳥獣戯画」と同時代や前時代の「戯画」風の作品は、「鳥獣戯画」に結実する時代の息吹を感じさせますし、また「鳥獣戯画」の一場面が断片的に挿入される後世の作品を見るとき、この絵巻がいかに大きな影響を絵師たちに与えたかを感じさせます。謎の多いこの作品に向けられる研究者の視点が展示に色濃く投影されていますね~。しかし「鳥獣戯画」に関係するこれだけの資料を全国から。。いやいや、外国からも借り出して展示するのですから、さぞや学芸員さんたちも大変な努力だった事でしょう。

さて「鳥獣戯画」そのものについて。

この絵巻は長大なものなので、展示ケースの中では全巻をすべて広げる事ができず、そのため前後期の日程で「展示替え」が行われるのでしょう。と言っても「鳥獣戯画」四巻はそのまま展示され続けるわけですから、要するに絵巻を広げる部分を替えるわけです。今回 ぬえが拝見した範囲は各巻とも全体のちょうど前半分程度ですから、後期の展示に再度訪れれば後半部分が見れ、それらを通じて全容を見る事ができるだろう、と推測できます。ちなみに今回展示されている範囲は以下の通りでした。

甲巻 巻頭~ウサギと蛙の弓矢競技、そのあとの宴会の支度の場面まで
乙巻 巻頭(群馬)~鶏・鷲・隼まで
丙巻 巻頭(囲碁)~闘犬まで
丁巻 巻頭(曲芸)~木遣りまで

それにしてもすべての日本人に愛され続けてきた「鳥獣戯画」。有名な甲巻の各場面は、あらゆる場面であまりにも我々はしばしば目にしているのですね。。正直に言えば本物を初めて見た ぬえにも、そういった場合に起きるべき感動が。。今回はやや小さかったような。彩色画であれば、印刷では絶対に表現できないニュアンスというものがありますが、「鳥獣戯画」は白描ですから。。まあ、それでも筆使いの小さな表情はわかるし、900年の昔にこれを描いた絵師の気分が感じられて、こちらまで幸せな気分になれるのは間違いないところです。

むしろ ぬえが驚いたのは作品に施された修復の、そのあまりにも高度な技術。最初目にした時にはあまりに保存状態が良いので驚いたのですが、よ~~く見ると さにあらず。描かれた料紙はかなり薄いもので、筆の跡も微妙に薄れているところもあるのですが、巻頭や、あるいは天地の部分などには墨が薄れたのではなく、あちこちに破損があるのです。ところがこれに厚い紙で裏打ちして補強してあって、その修理の跡、つまり新旧の料紙の境目は、目を凝らして見ないとわからないほど。これはすごい技術だ。