1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
Entrance to St Francis Wood, early 1920s.
3.日本型田園都市構想
3-1 イギリス田園都市から学ぶこと
西村利也著「日本型田園都市構想―イギリス田園都市と
比較し京田辺市を見直す―」によれば、レッチワースと
は、エベネーザー・ハワードの田園都市コンセプトを初
めて具体化した田園都市であった。そのコンセプトとは、
「都市と農村の融合」である。彼の描く田園都市は、単
なる新しく開発される都市像ではなく、都市経営、土地
保有制度、税制までも視野に入れた新たな社会像である。
彼の基本理念の特徴は、①土地の公有、②コミュニティ
の自治と協同、③都市―農村の結合/工業・農業の均衡、
④組織的成長管理/分散的ネットワークの4つであった。
Foutain in St. Francis Wood early 1920s.
3-1-1 現在のレッチワースの状況と課題
このような理念を基につくられた田園都市であるが、現
在に至るまで多くの問題点と課題も浮き彫りとなる。な
お、99年度のレッチワースは、人口 32,067人、市街地
900ha、農地面積 930haである。人口は計画の数字とほ
ぼ一致しているが、市街地が増え、農地が大幅に減少。
①住居:テラス形式が4割、独立住宅2割を占め、長期
空き家になっている独立住宅が増加。理由は、ロンドン
への通勤時間が長いこと、借地契約残存期間が短くなり、
ローンを組むことが短くなり、市場性が狭まる。
②店舗:ハワードが提示した、一業種・一店舗の原則は
守られていない。というのも、レッチワース自体が一種
の観光地化し、特定の業種の集積などによる特徴付けが
求められ、比較購買が商店街の大きな魅力要素であるこ
とが理由にある。
③工場・事務所:135haの工場(工業)地帯がある一方、
オフィス・会社は、撤退した大学校舎を事務所に改装し
たビルに外資系企業が入居しているという状況である。
④農業:現在、レッチワース・ガーデンシティファーム
ズ(株)(以下、GC)がレッチワース・ガーデンシティ・
ヘリテージ財団(以下、GC・HF)から土地を借り、直接
農業経営を行っていたり、農家に転貸したりしている。
また、直売所もあり、ハワードの想定どおり地元産の野
菜は値段が高くても売れる。
⑤財政:現在、土地の所有・管理はGC・HFが行っている。
そのバランスシートの経営指標を日本の三菱地所(株)
と比較してみる。全般的にレッチワースGC・HFは三菱地
所に比べ各勘定科目で2桁以上少ない違いがある。しか
し、収益性基準、流動性基準においては遜色なく、自己
資本固定比率(固定資本に占める自己資本の割合)では
三菱地所の約5倍であり、財務面では安定している。
現在のレッチワースの課題
- ハワードの農村観は常に都市側からの利用という
視点に立っており、農村の振興、再生への提言と
みた場合に不充分である。 - 良好な住環境を財政的に成功する形で提供するこ
とに集中した田園都市協会の主導によって建設が
進められたために、都市農村融合が実現されなか
った。 - 在住者の40%はロンドンなどへの通勤者であり、
現在はややベッドタウン化している。 - 農業生産物は一度ロンドンの中央市場に出荷され
てしまい、地域内流通、域内自給 いう点では弱
い。 - 郊外ショッピングセンターの影響で、市内の店舗
は閉店、衰退する傾向にある。 - 景観・緑地維持のための新しいビル開発を抑制し
なければならない。 - ここ20年間における産業構造が変化し、現在は
流通業、ライトエンジニアリング、コンピュータ
ー関連産業が増加した。これらの新しい産業・企
業の誘致が必要である。
これらの課題は、日本型田園都市を構築するにあたり共
通したものも多く、参考とし考慮する必要がある。
3-2 日本型田園都市の展開
3-2-1 日本とイギリスの比較
様々な問題を抱えながらも、レッチワースは、最も完成
度の高い田園都市のモデルとして参考になるが、その理
念の全てを日本という国土にレッチワースのような基本
理念が当てはまらない。イギリスと異なる農村観を持つ
国においては、その適用性は限界がある(気候、農園の
規模、農産物市場の違いなど)。
現在、日本型田園都市として開発された東京田園調布の
モデルはレッチワースではなく、ハワードとは何の関係
もないサンフランシスコの高級住宅地サー・フランシズ・
ウッドである。このような状況になった背景には東京の
急速な人口増大に対して、郊外に良好な住宅地をつくる
ことは理解できても、職場を分散させ、自立的な都市郡
を形成する必要性は、当時の日本人には認識されなかっ
たことがあげられる。
また、急速な近代化を目指していた日本人にとって、す
でに社会は成熟期を迎え、生産から生活へ人々の価値観
の転機から現れてきたイギリスの近代都市計画の理念は、
理解の範囲を超えていたようである。そのため、ハワー
ドが唱えた田園都市のコンセプトは、海外では否曲され
伝わり、田園都市というより住宅地だけを都市郊外に切
り離し、働く場所としての大都市と鉄道で連結したもの、
つまり田園郊外と呼ぶべきものになってしまったのであ
る。
今後の展望は、このような過去の失敗を踏まえた上で、
日本の現状、土地制度、風土、文化、技術など様々な点
を考慮し、都市と農村の一体的整備、運営がなされるよ
うな日本型田園都市を形成しなければならない。
Similar view, 2007
3-2-2 日本型田園都市の作り方
ハワードが唱える田園都市構想は大都市から離れたとこ
ろに「単体」としての田園都市に注目している。つまり、
更地に新都市をつくることを目指したのである。しかし、
現在の日本において更地に新都市をつくには、あまりに
も多くの都市が既に構築され混在しているので、その発
展性、将来性、財政面を考慮し予測した場合、長期にわ
たる計画の上、ある特定の地方都市を発展させるに留ま
り、日本全国に数ある地方都市を潤すことにはならない。
このことから、まず考えるべきは、既存の小都市や町村
から議論を出発させ、そこに都市計画を樹立し田園都市
を整備していくことを考えるべきである。また、イギリ
スも日本も問題は共通であり、考えるべきことは、いか
にして都市への人口集中を抑え、人々を土地に戻すかと
いうことである。その問題を解決する一歩は、都市への
人口集中を招いた原因を熟考することである。
3-2-3 都市計画理論による問題是正
なぜ都市に人口が集中したか。その理由は簡単で、大都
市に工業が集中したためである。まずは、その工業を地
方に分散しなければならない。その工業を受け入れるに
は、設備の整った小都市が必要となる。その小都市が、
田園都市となるわけである。以下、はじめにで列挙した
5つのキーワードを基に問題是正への提案をする。
① 各種インフラの必要性(交流のポイント)
現在、上述したような施設の整った小都市は、日本には
一つもないのが現状である。そこで、設備の整った小都
市をつくるためには、鉄道施設や通信、情報といった各
種インフラ、住宅地などを優先的に整備することは絶対
条件である。
特に、通信インフラのメリットは、地方や過疎地におい
て際立つものである。通信インフラによるネットワーク
化を推進することにより、生活と自然、そして職場を一
体とする職住一体というライフスタイルを取り戻すこと
ができ、ベットタウン化の防止にもなる。
また、住民参加型の町づくりを推進するにあたり、情報・
通信インフラは、住民と行政のコミュニケーションギャ
ップの解消、住民参加に参加したいとする新たな住民の
掘り起こしなどに、大変効果的なツールである。インタ
ーネットを媒体とした情報・通信インフラは、情報不足、
時間不足、資金不足が理由で住民が参加できないという
障壁を取り除くことのできる有効な手段である)。
今後、必要とされること、
- パソコン普及の促進。公共のパソコン使用施設の
展開(インターネットカフェなど)。 - 高齢者に対しての情報機器使用方の指導、教育提
供(パソコン教室などの開催)。 - 情報管理システムの整備。
などがあげられる。
そして、もう一つ重要なのは、交通インフラである。地
域の発展とは、換言すれば、「都市と地方との交流事業」
である。都市と地方の間で人々が活発に行き来すること
により初めて人が地方に流れ込み、モノが動き、カネが
動くのである。それが都市の活性化を引き起こし、地域
を発展させる。人、モノ、カネの地方への流動化を促進
させるためには、交通インフラの整備は必須であると、
著者の西村利也このように展開を述べている。
この項つづく
【脚注及びリンク】
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- 田園都市 Wikipedia
- 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也 - 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
- 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
45、2003.7.8 - 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
- 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
宮﨑洋司市 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.06 28 - 平成 28年度 主要事業 彦根市
- 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
滋賀県 - 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
- 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主導
のまち創る-近世城下町 彦根市本町地区の2例の
場合-(これからの都市づくりと都市計画制度 全
国市長会) 中島一 2005.05.09 - 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
- 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
- ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
- 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
- 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
- 「道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
波新書 - 日本の道路史 武部健一 中公新書
- 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
- 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
- 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
- 彦根市都市計画道路網見直し指針
- 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
- 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31
- 彦根市立図書館|簡易検索
- 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
- 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
展望 2014.11.26 - アウガ Wikipedia
- 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
- 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
- コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
青森から見る居住の自由 2016.11.08, Ya hoo!ニュース - <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河北新
聞 2016.01.28
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