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田園城郭都市構想 Ⅰ

2017年01月13日 | 湖と城郭都市

  

 Ebenezer Howard

1.ハワードの田園都市構想

田園都市(でんえんとし、英:Garden city)には、①「
豊かな自然環境に恵まれた都市」という一般的な意味と、
②1898年に英国のエベネザー・ハワードが提唱した
新しい都市形態という、2つの意味がある(Wikipedia)。
後者のハワードの提案は、その後の都市計画、とくに住
宅地計画に対して大きな影響を与えることとなり、第二
次世界大戦後の英国のニュータウン政策のみならず、日
本をはじめとする世界各地における郊外型の都市開発な
どにも大きな影響を与えている。

1-1 ハワードと田園都市

産業革命が進行した英国は、雇用の場である都市に人口
が集中し、人々は自然から隔離され、遠距離通勤や高い
家賃、失業、環境悪化に苦しんでいた。これを憂いたハ
ワードは、「都市と農村の結婚」により、都市の社会・
経済的利点と、農村の優れた生活環境を結合した第三の
生活を生み出すことによる解決を目指し、1898年に
明日――真の改革にいたる平和な道(To-morrow: A
Peaceful
Path to Real Reform)」を出版した(1902年
にわずか
に改訂され「明日の田園都市(Garden Cities of
To-morrow
」と改題)。  

ハワードの提案は、①人口3万人程度の限定された規模
の、②
自然と共生し、③自律した職住近接型の、④緑豊
かな都市を
都市周辺に建設しようとする構想である。⑤
そこでは住宅
には庭があり、⑥近くに公園や森もあり、
⑦周囲は農地に取
り囲まれている。⑧不動産は賃貸し、
不動産賃貸料で建設
資金を償還するので、⑨都市発展に
よる地価上昇利益が土
地所有者によって私有化されず
⑩町全体のために役立て
られる。

この理論は一定の支持者を獲得することができ、189
9年にはハワードを中心に田園都市協会が設立されてい
る。この協会は、1903年にはロンドン北郊のレッチ
ワースにて初の田園都市建設に着工。この事例では田園
都市を運営する土地会社が住民たちに土地の賃貸を行い、
土地会社の資金を元手に住民たち自身が公共施設の整備
などをすすめている。第一次世界大戦後の1920年に
は2つ目の田園都市となるウェリン・ガーデン・シティ
を着工する。

2-2 その後の田園都市

ハワードによる田園都市の提案と、その実現であるレッ
チワースとウェリン・ガーデン・シティは、世界各地
の建築家や都市計画家に影響を与える。たとえばドイツ
では、田園都市構想の影響によってヴァイマル共和国時
代にドイツ各地で建築家ヘルマン・ムテジウスやブルー
ノ・タウトらによる住宅開発計画が進められている。

米国で1909年からニューヨーク郊外に計画されて開
発された郊外住宅地フォレスト・ヒルズ・ガーデンズ(
Forest Hills Gardens)も、この田園都市運動の影響下に建
設されたものである。建設した財団研究員のクラレンス
・ペリーはここに居住して近隣住区論を発表。さらに、
この近隣住区論を実践しようと開発されたニュージャー
ジー州のラドバーン(Radburn)では、車と人を分離す
る道路システムが生み出される。この近隣住区とラドバ
ーン計画の考え方は、世界各地の都市建設で活用されて
いる。

ハワードは1928年に没するが、レッチワースなどの
成功は英国政府を刺激し、大ロンドン計画をもとに、第
二次世界大戦後の1946年にニュータウン法が制定さ
れ、政府の手で30以上のニュータウン・コミュニティ
が建設された。

21世紀の今日でもニュータウン建設や郊外住宅建設に
あたってはハワードの理論が引用されることが多いが、
実際に英国以外に建設された郊外都市の多くには職場が
ほとんどなく、田園都市の美名の下、いわゆるベッドタ
ウンであり理論どおり職住近接の自立した都市や住民に
よるコミュニティが実現する例は多くない。

 Jane Butzner Jacobs

米国の都市著述家であるジェイン・ジェイコブズは、ハ
ワードの「田園都市論」を批判。①ハワードの街の思想
動線等について非常に合理的な考え方がみられること
②街並みを美しくするため規則正しく設計する手法、③
これらを規則に則って生活を強いているとして、④街は
もっと様々なことがミックスされることが必要であると
提案する。この二人の違いを俯瞰すると、①「都市論」
では、ジェイコブズの都市は活気があふれた大都市のこ
とを指し、そのためには空間やその利用者等が多様性に
富んでいる必要とし、この多様性の殆どは公共体や準公
共体の活動の正式の枠組みの外にあり、思い思いのアイ
ディアや目的、計画や企みを抱く膨大な数の人々や民間
組織によってつくられたもので、多様性が都市で成長す
るのは、その経済的機会と経済的魅力の反映だとし、都
市の経済的側面を強調するダイナミックで複雑系にある。

一方、ハワードの(田園)都市は無秩序な発展により劣
悪な労働環境に置かれた大都市部と自然環境に優れるが
過疎化に悩む農村部の、両方の問題を同時解決する社会
的装置である。都市は放っておくと生活の安全・安心を
脅かし、土地を巡る投機的活動を必然的に招くため、これ
をコントロール可能とする仕組み――田園都市会社によ
る共同所有と借地方式に基づく土地経営に住民が参加―
―自主的な決定と管理運営を配慮した静的でしステマテ
ィック存在とする。



②「計画論」では、
ハワードの田園都市計画が三つの提
案――①
 E.GウェイクフィールドとA.マーシャルによる
組織的人口移住運動の提案、②
T. スペンスと H.スペン
サーによる土地保有組織の提案、③
J. バッキンガムの
モデル都市の提案――を結合したものであるのに対し、
主に①と②に係るもので、大都市の自立した住民とその
文化生活の享受を前提とするジェイコブズの計画観と大
きく異なる。

つぎに、③「競争観」では大都市と郊外ニュータウン(
田園都市)は様々な点で異なるので両者を同じ観点・基
準で論ずるのは不適であるが、前者が過当競争を制御す
るのに対し、後者は、多様な用途間の競争には寛容ね姿
勢をみせる。これは④「コミュニティ観」も同様に都市
が抱える人口論の差異に依存する。

                   この項つづく

【エピソード】 
    
     
  

 

【脚注及びリンク】
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  1. 田園都市 Wikipedia
  2. 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
  3. 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード
    : 宮﨑洋司市
  4. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  5. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
    橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  6. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  7. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
    導のまち創る-近世城下町 彦根市本町地区の2
    例の場合-(これからの都市づくりと都市計画
    制度 全国市長会) 中島一 2005.05.09
  8. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  9. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  10. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  11. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  12. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  13. 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
  14. 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  15. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  16. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    波新書
  17. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  18. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  19. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  20. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  21. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  22. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
  23. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  24. 彦根市立図書館|簡易検索
  25. 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  26. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
    展望 2014.11.26
  27. アウガ Wikipedia
  28. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
  29. 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
  30. コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
    青森から見る居住の自由 2016.11.08, Ya hoo!ニュー
  31. <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河北新
    2016.01.28

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