コンパクトシティ事例研究 Ⅲ

2016年11月14日 | 湖と城郭都市

 

  

● 実現しなかったイメージ

インナーの中心となる青森駅前には、公共投資によって
シニア向け分譲マンションやホテルなどが次々と誕生。
老朽化した駅前生鮮市場の再生事業として1980年代
から計画が進んでいたアウガも、コンパクトシティ化の
一端を担う形で185億円をかけて01年に開業。来館
者数は年間600万人を超えるなど活況を呈したが、売
上げは予想の半分以下である。これに対し、佐々木元青
森市長は、景気の低迷で開業前にキーテナントが撤退し
たのは大きな痛手でしたが、他にも要因はある。そもそ
も当初はアウガ単体ではなく、駅前の複数の再開発プロ
ジェクトと連携して街全体を活性化する計画だったとい
う。

アウガを含む駅前の再開発エリアを中心にまずインナー
の暮らしやすさを向上させ、除雪が困難になった郊外の
お年寄りには街中へ住み替えていく。そして、お年寄り
が移住して空き家になったミッドエリアの住宅には、フ
ァミリー世代の居住を促し、そうやって少しずつ街を小
さくしていくコンパクトシティをイメージしマスタープ
ランが計画されたものの、思惑通りには進まなかった。



09年、道半ばで佐々木氏は市長選に落選。次期市長の
下で再開発計画は白紙撤回され、青森市のコンパクトシ
ティ構想は頓挫する。コンパクトシティの本質は、中心
街の活性化という小さい話じゃなく、いかに人々が暮ら
しやすい街をつくるということ。それは将来的な雇用の
創出も視野に入れた長期的な取り組みであった。あった
が、背景として市の財政悪化事情(これは全国的に共通)
があるため頓挫したと考えた方が自然であろう。

● 全国に失敗事例はごまんとある

役所主導の再開発が失敗した例はアウガだけではない。
例えば佐賀市の中心市街地で98年に開業した商業施設
「エスプラッツ」。わずか8年で運営会社が倒産し、巨
大な空き家」が市の中心部に長らく存在するという異常
な状態となった。

また、秋田市の中心部で12年7月に開業した「エリア
なかいち」でも、総合食品売り場の運営会社が売上目標
の未達を理由に開業から2年足らずで撤退。その後も撤
退が相次ぎ、テナントの大幅な入れ替えを迫られている。

共通しているのは、アウガの例が示すように商業施設と
しての採算性の見込みに甘さがある。アウガ再生の報告
書は「非現実的な事業計画をベースにスタートし、
それ
が現在の苦境の主因となっている可能性がある」と
指摘
されている(「西武も逃げ出した青森駅前再開発ビ
ルの
今」日経ビジネスオンライン 2016.01.27)。

また、街中は家賃も駐車場も高く、土地や家を買うこと
もま
まならない。住めるのは金持ちだけで、普通の年寄
りは無
理。車があれば買い物にも困らないし、そもそも
60年以上暮らした場所を離れるなんて考えられない。
という市民感情が根強く反映されている。自治体の都合

より自らの生活を優先するのは、市民にとって当たり前。
中に住む合理性が見出せないかぎり、人はこれからも
市内の空洞化に歯止めがかかることはないだろう。



● 失敗しない方法

しかし、経済、財政制約に
、ハード整備などで広がった
都市を小規模化するのに多額の投資をして開発すること
は、短期で、経済的/財政的に評価できるものではない
ことも事実。この矛盾解決には、例えば、現在の税制を
見直し全国の自治体のキャッシュフローを変える(=自
治体の財政基盤強化)ことが基本的な方策の1つである。
もっとも、この構造改革を実現するには政治パワーを要
す。

また、莫大な予算を必要とする事業を行わず、子育て支
起業支援などを手厚くすることで、街を活性化する
ことは可能、ハコモノに頼らない、知恵と工夫による街
づくりこそ、人口減少時代に求められているとの方法も
魅力的だ(日経ビジネス特集「活力ある都市ランキング
」2016.01.25)。

開業率1位、福岡市が起業しやすいワケ

● 計画外の地域を選ぶ「居住の自由」

だがしかし、コンパクトシティには課題が山積していると
いう。郊外から中心部への住み替えはコンパクトシティ
化の柱の一つだが、居住誘導策は、憲法22条が認める
「居住、移転の自由」への介入との見方も可能であり、
どの自治体も即効性のある施策を打ち出せていない。そ
れどころか、いまなお“コンパクト”と反対の動きであ
る市街地の拡大は止まっていない。現実的に、街を面的
に小さくすることは容易でない。その事例として、
山梨
県の2000~10年の居住地域の変遷を示すと下図の
ようになる。山深い地区にも居住エリアが広がり、他都
市でも同様の傾向が見られると言う(「コンパクトシテ
ィはなぜ失敗 するのか 富山、青森から見る居住の自
2016.11.08, Ya hoo!ニュース
」)。

そして、消滅する集落がある一方、そのすぐそばに新し
い住
宅地が出現するケースもある。もし文字通りに街を
コンパクト
にするのであれば、強制力を伴う居住制限区
域を設けるなど
、思い切った施策が必要になるとした上
で、今後は(1)すでにある社会資本の有効利用によっ
て(2)住民が付加価値の高い仕事に就ける仕組み作り
をするのが最優先だと指摘している。そうすれば、地域
に住む1人あたりの経済的な豊かさを実現すれば、たと
え人口が減って行政サービスが行き届かなくなっても、
地域でお金を出し合ってコミュニティバスなどインフラ
を維持することもできる。物理的に街をコンパクトにで
きない以上、地域の豊かさを向上させる施策にももっと
目を向けるべきだと提言する(同上)。


そして、都市のコンパクトシティ化はすでに国策的な色
を強め
ている。政府は14年、都市を「都市機能誘導区
域」と「居住誘導区域」に分け、区域外の開発を抑制す

る「立地適正化計画」の導入を決めるが、これは、国が
「理論としては完璧」なコンパクトシティ政策を急ぐの
は、将来的な「居住制限」への布石、そうすると、自ら
高いインフラコストを払ってでも愛着のある土地に住み
続ける「居住の自由」を取るのか、行政サービスの行き
届く居住推奨地区で集住するか。選ばなければならない
と結んでいる(同上)。

                     
この項了

【エピソード】 

    
     
 

●会員の皆様へ

ご健勝のこと何よりです。小生は腰痛の再発ということ
で、朝
のお勤めと腕立て伏せ(10回/回)だけは欠か
さずやってお
ります。たかが腕立て伏せと考えていまし
たが、何の、スクワ
ット同じです。ゆっくりと時間をか
け10回はそれはそうとなもの
で、簡単にでき奥が深い
と感心しております。


前置きはここまでとして、恒例の新年会の準備の季節と
なりま
した。つきましては、ご意見と近況をお寄せいた
だければ幸甚
の次第です。

                    幹事敬白 
 

【脚注及びリンク】
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  1. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  2. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
  3. 橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  4. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  5. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
    導のまち創る-近世城下町 彦根市本町地区の2
    例の場合-(これからの都市づくりと都市計画
    制度 全国市長会) 中島一 2005.05.09
  6. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  7. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  8. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  9. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  10. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  11. 都市計画-1 日本の都市計画制度の概要 大谷英
       
  12. 都市計画-2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  13. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  14. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    波新書
  15. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  16. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  17. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  18. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  19. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  20. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市 
  21. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  22. 彦根市立図書館|簡易検索
  23. 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  24. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
    展望 2014.11.26
  25. アウガ Wikipedia
  26. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
  27. 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
  28. コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
    青森から見る居住の自由 2016.11.08, Ya hoo!ニュー
  29. <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河北新
    2016.01.28

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