コンパクトシティ事例研究Ⅰ

2016年11月11日 | 湖と城郭都市

 

【コンパクトシティ事例研究Ⅰ:富山市】

戦後の人口増加と成長のもと、居住地域はいたるところ
に広がった。だが、人口が減少する昨今、都市機能や居
住地域をコンパクトにまとめる行政効率の良いまちづく
り「コンパクトシティ」政策が各地で進められている。
多くの自治体で巨費を投じられているものの、その効果
には賛否両論が尽きない。コンパクトシティ政策の問題
とは
何か。先駆的に取り組んできた富山市を先進事例と
して、
人口減少時代の都市のあり方を考える。



中心市街地活性化制度本計画

● コンパクトシティとは何か

コンパクトシティとは、都市機能が高密度にまとまり、
徒歩や公共交通での移動がしやすい都市形態のこと。コ
ンセプトは1970年代の米国で、行き過ぎた郊外化へ
の反省から生まれたとされている。日本では2005年
頃から注目を集めるようになる。

都市をコンパクト化すれば、郊外に広がった商業・居住
エリアから空洞化した中心街に活気を取り戻せる上、イ
ンフラ維持管理などの行政サービスも効率化できる。そ
のためコンパクトシティ政策は、秋田県秋田市、栃木県
宇都宮市、新潟県長岡市など多くの自治体で再開発のテ
ーマに掲げられていく。

背景には、政府による強力な後押しがある。国は06年、
自治体が定める「中心市街地活性化基本計画」のうち、
認定した計画に交付金や税の特例を適用する形で、自治
体のコンパクトシティ化を支援し始めた。認定数は累計
136市200計画に上る。

今年7月、総務省が行った「地域活性化に関する行政評
価」で、「中心市街地活性化基本計画」は評価対象とし
た44計画のうち目標を達成できた計画が「ゼロ」と判
明。他の地域活性化手法と目標達成度に明らかな差異が
あることを重く見た高市早苗総務相が、関係省庁に改善
を勧告する事態となっている。


富山市ガラス美術館の入る複合施設「TOYAMAキラリ」

● なぜ注目したのか 

富山市の市街地は1970~2010年までの40年間
で約 2.1倍に拡大。一方、人口は05年をピークに減
少へ転化した。現在約42万人を抱えるが、人口密度は
全国の県庁所在地で44位の1平方キロメートルあたり
337人(新宿区は1万8300人)まで低下。激しい
郊外化が進んでいる。

市の試算(04年)では、郊外化で人口密度が今の半分
にまで低下すると、住民1人当たりの道路や下水道の維
持更新費は2倍になる。
人口減少などで税収が減る中、
街のすみずみまで道路や学校をこれまでと同じように維
持管理していくのは無理があります。また、人が減った
ことでスーパーや病院、公共交通などが撤退すれば、暮
らし自体も困難になる。コンパクトシティはそれらの諸
問題を解決の処方箋になると担当職員が答えている(「
コンパクトシティはなぜ失敗するのか 富山、青森から
見る居住の自由」2016.11.08, Yahoo!ニュース)。



LRT環状線富山駅/JRから屋外に出ずに乗り換えが可能

こうして富山市はコンパクトシティ化へと舵を切った。
07年には、国が認定する「中心市街地活性化基本計画」
の第1号になる。
市は計画の中で、まず、LRT (次世代
型路面電車:Light Rail Transit)
)な
どの公共交通を再整備
し、駅前や中心街を再開発によって活性化しながら、散
らばった居住エリアをゆるやかに中核拠点に寄せる意図
をもつ。
そうした取り組みの結果、LRT全線の1日平均
乗車人数は大幅に増えたという。中心市街地への転入人
口も毎年プラスになっている。コンパクトシティ政策の
成果は着実に上がっている。

だが、中心部の景観はきれいになり、街が活性化してい
る実感はありません。通りを一本外れれば、シャッター
街や空き家が並んでいますから。LRTは年寄りには便利
だと思うが、若い世代は今でも車移動中心に変化はない。
たしかに、昔は人の頭で前が見えないほどの人出で賑わ
って
いた市中心部の商店街に、その面影はない(彦根市
同様である(「キャッスルロート夢京橋」は観光客の
影響で賑わっているがこれは例外)。



富山市郊外部のショッピングモール

そのことを踏まえ、
富山市のコンパクトシティ政策は郊
外の暮らしを否定するものではなく、あくまでも無秩序
な郊外の拡大を抑止し、活気ある中心街と公共交通網を
軸に街に人や企業が集まる流れを生むことが目標であり、
まちづくりの結果が見えるまでにはそれなりの年月が必要。
公費も含む巨額の投資コストに見合う効果も含め、コンパク
トシティの成否の判断はまだ早い、というのが富山市の見解
である。

ここで、富山市のLRT (次世代型路面電車:Light Rail Transit)
に対応するのは近江鉄道であり、近江鉄道、JR西日本との
利便性への再考と投資計画が課題となる。
 
                             この項つづく

【エピソード】 
    
     

 

 

 

【脚注及びリンク】
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  1. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  2. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
  3. 橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  4. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  5. 「地域資源・交通拠点等のネットワーク化による
    国際観光振興方策に関する研究」国土技術政策総
    合研究所 プロジェクト研究報告 2008.05.21
  6. 「歴史まちづくりのてびき(案)」ISSN 1346-73
    28 2013.11.13
  7. 歴史まちづくりの特性の見方・読み方 国土技術
    政策総合研究所 2013.04.11
  8. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主導
    のまち創る-近世城下町 彦根市本町地区の2例の
    場合-(これからの都市づくりと都市計画制度 全
    国市長会) 中島一 2005.05.09
  9. List of cities with defensive walls Wikipedia
  10. ヨーロッパ100名城 Wikipedia 
  11. 中国の城郭都市 : 殷周から明清まで 愛宕元著
  12. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  13. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  14. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  15. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  16. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  17. 都市計画-1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一   
  18. 都市計画-2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  19. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  20. 「協働的プランニング」の都市計画理論 Patsy He-
    aley ,“Collaborative Planning”2010.02.13
        
  21. 第4回 リスク社会論 ベック・ギデンズ・ルーマ
    ンの「リスク」論(現代都市文化論演習 2009)筑
    和 正格 2010.05.25
     
  22. ビフォア・セオリ 現代思想の<争点> モダンと
    ポストモダン 慶應義塾大学出版会|人文書
     
  23. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩波
    新書
  24. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  25. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  26. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  27. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  28. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  29. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市 
  30. 彦根市新市民体育センター整備基本計画 2016.10.31 
  31. 彦根市立図書館|簡易検索
  32. 日中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  33. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
    展望 2014.11.26
  34. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP

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