二草庵摘録

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人物列伝と組織批判の秀作 ~半藤一利「指揮官と参謀 コンビの研究」を読む

2022年02月09日 | 歴史・民俗・人類学
いやあ、巻擱くあたわずじゃ、一気読みだった・・・といっても2日がかりだけどね(´ω`*)
吉村文学はしばらく中断し、半藤一利さんに秤が少し傾いた。
まず「内容紹介」に目を止めておこう。

《太平洋戦争敗北の背景には、新しい組織論の欠如があった。英雄が歴史を作り出す時代は終わり、現代の組織においては、「際立った個人」より、総合的戦略としてのリーダー・シップが必要とされている。山本五十六、東條英機など大本営を担った軍部の重鎮たちはじめ彼らとともに日本軍の作戦行動に関与した指揮官と参謀の組合せ十三例をあげ、組織内におけるコンビネーションの重要性を学ぶ──経営者に欠かすことのできない、人材とは何かの一端を巧みな人間描写によって導きだす。》BOOKデータベースより

つぎにもくじもコピーしておく。
・はじめに
・板垣征四郎と石原莞爾  謀略で満洲事変を演出した“智謀”と“実行”
・永田鉄山と小畑敏四郎  統制派対皇道派に陸軍を分裂させた盟友
・河辺正三と牟田口廉也  盧溝橋とインパール・最大の“無責任”司令官
・服部卓四郎と辻政信  ノモンハン敗北から開戦へ・不死身の参謀たち
・岡敬純と石川信吾  対米開戦へ引っぱった海軍の主戦派
・永野修身と杉山元  対米開戦「居眠り大将」と「グズ元」の二人三脚
・山本五十六と黒島亀人  伝統の海軍戦略を破った異端の二人
・南雲忠一と草鹿龍之介  ミッドウェイ惨敗をもたらしたもの
・東條英機と嶋田繁太郎  「東條の副官」といわれた海軍大臣
・小沢治三郎と栗田健男  「レイテ湾突入せず」栗田艦隊反転の内幕
・山下奉文と武藤章  東條に嫌われた二人のルソン籠城記
・牛島満と長勇  沖縄攻防・仏(ほとけ)の軍司令官と鬼の参謀長
・米内光政と井上成美  終戦工作に生命をはったア・ウンの呼吸
・天皇と大元帥  同一人格のなかの二つの顔

長々ともくじを引用したのは、この右に付された但し書が、そのまま内容紹介を兼ねているからである。本編は元々「コンビの研究-昭和史のなかの指揮官と参謀」というタイトルで、1988年に文藝春秋社から刊行されたが、文庫化するにあたって、タイトルとサブタイトルをひっくり返した。
あとがきのなかで、歴史とは人間学であり、真相を探り出すことによろこびを感じている、と書いておられる。

指揮官と参謀をペアとして眺めることで、権力の座標がどう働き、どう動いていったかが、驚くほど明瞭となる。
まさに「そうか、そうだったのか!」である。あとがきを除き、本文313ページという紙幅で、よくもまあ、これだけの内容を盛り込めたものだと脱帽あるのみ(゚Д゚;) 
むろん複雑に絡まりあった糸を解きほぐすにあたって、四捨五入したり、単純化したりはしているはず。

では理解しやすく図式化されているかというと、そんなことはない。政治と外交、戦争戦略にかかわる権力というものの陰影をうまく掬い上げることに成功している・・・とわたしは読んだ。
軍人が多いが、戦争は軍人がやったのだから当然。その軍人の多くは歴史のかなたに忘れられ、たとえば「山下奉文と武藤章」といわれても、ほんの一握りの人しか知らないだろう。彼らがどんな思いを抱いて戦い、死んでいったのかなんて、教科書ではまったく教えないし、“過去の恥”とかんがえている人すらいる。
かくいうわたし自身、“ほとんど知らない”人の一人であった。

「永田鉄山と小畑敏四郎」「永野修身と杉山元」「山本五十六と黒島亀人」「牛島満と長勇」など、こういった章を読みすすめながら、半藤一利さんが放つことばの矢が、ずぶりずぶりと心に突き刺さってくる。
半藤さんは峻烈な批判をしばしば浴びせているが、痒いところに手が届くような表現を択び、彼らの長所と欠点、時代の流れのなかで果たした役割について、すぐれた人物論を展開している。
そのお手並みは、稀代の名シェフというにふさわしい(^^♪

ことに最終章、「天皇と大元帥 同一人格のなかの二つの顔」は、逸品と断言できる。忙しがっている人であっても、この一章だけは必読であろう。
これまでたちこめていた濃霧が、カラリとはれていくのを感じることができる。少なくともわたしの場合はそうであった。
この章こそ、半藤一利さんの、短いことばで語られた“天皇論”の決定版! であろう。

ここでまたしても、“最終の国家としての責任は誰ももっていなかった、という不思議”について考察している。これが日本という国の、組織のありようなのだ。それがわかっていながら、解消できないのが日本の組織の実態、むろん少数の例外はあるにせよね。
したがって、本編は官庁や企業(大企業)の組織に対する昭和史からの痛烈な批判としても読める。

エピソードも考察も、短い章を重ねているので、歯切れのよい半藤節は快調。わたしは最後まで痺れっぱなしだった。
うむむ、ありがとうございます半藤さん、十分に堪能させていただきました!



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