二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

瑪瑙の青 ~弔辞にかえて(ポエムNO.3-6)

2018年07月25日 | 俳句・短歌・詩集
きみの胸にぶらさがった瑪瑙のペンダントを裏返すと
「取扱注意」と小さな文字が刻印されていたのを覚えている。
「普通のひとには見えないのだけれど
あなには見えたのね」と
謎をかけるようにいったきみは
さっさと彼岸のドアを開けて
向こうの部屋へと去ってしまった。

そうか ぼくだけがそれを知らなかった
・・・二年ものあいだ。
「おや 電話が通じない」
なぜそのとき 気がつかなかったのだろう。
ドナルドが横を向いて涙ぐんでいる。
死んだひとは帰ってこないし
電話にも出ない。

「サヨナラサヨナラ
サヨウ ナラ」
といつもおどけてミニーは幽かに笑いながら
ふっくらした唇を舐めた。
そういうクセがあったことに
彼女自身 気が付いていたのだろうか?
ミニスカートがよく似合った

あのころのミニー
ぼくのミニーさん。
・・・と呼びかけたって
何の返事もない 当然ながら。
幼いむすめや夫 友人たちをおいてきぼりにして
いったいどこへ隠れたのだ。
出ておいで

少し傷んだ椅子の下や
うろのある古木の木陰や
ウィスキーが入っていた樽のなか。
きみはどこにでもいるし
どこにもいない
と悟ったとき
悲しみがあふれた。

若かったころはよく
ぼくのカメラの前に立ってくれたね。
感情の洪水で水びたしになった一夜をすぎて
すぎて
きみの面影をパジャマのように着て
今夜は眠りにつこう。
享年四十五。

だれが突然死を予測したろう
ぼくだって同じさ。
だけど 日がな一日
茫然としているわけにはいかない。
歩道ですれ違いざま
「あっ ミニー! 
あのときのきみ」

ではなかったと
ふたたび気がついて
遠ざかっていくひとを見送る。
そうか 弔辞を書こう
二年もたってからだっていいじゃないか。
花はまたたくまに色あせるけど
弔辞は色あせない。

「サヨナラサヨナラ
サヨウ ナラ」
別れのときがくると
いつもおどけてミニーは幽かに笑った あのときも。
最後に会ったあのとき も。
たくさん眠っているネガを掘り起こし
きみに会いにいこう。

うん
そうしよう。
今年の夏は暑すぎて
ほかに なーんにもやりたくないから。
ペンダントには「取扱注意」と書いてあったけど
その通りだったのだね。
瑪瑙の青は ぼくの手のひらで

深い悲しみの色となる。





※2018年7月、長いあいだ撮影のモデルをつとめてくれたN・Tさんの訃報を聞く。

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