宝島社「このミス!」や週刊文春の恒例となっている、年末の人気投票で、毎年のように名をつらねているジェフリー・ディーヴァー。
リンカーン・ライム&アメリア・サックスシリーズは、彼の看板出し物で、これが6作目。「所詮はエンタメ。娯楽作品でしょ」という人もいるけれど、ここまでくれば、境界はかなりあいまい。そのくらい、想定している読者のレベルは高いのではないだろうか。
毎回のこととはいえ、このシリーズの登場人物やストーリーテリングのハードアンドビターな味わいは、複雑なアロマいっぱいで、かなりのミステリ通をも唸らさずにはおかない。
リンカーンもサックスも、それぞれの苦しみを抱えている。作者は、キャラクターを造形するにあたって、たいへん重い荷物を、登場人物それぞれに背負わせているのだ。
それが、本書を「大人の読物」にしている第一の要因だろう。
「魔術師」で見せた鋭利な刃物の上を渡っていくような読後感は、本書にはない。かわりに、アメリア・サックスの亡父にスポットをあてて、同じ警察官(刑事)として生きていくことを選んだ、その娘の苦悩をていねいにトレースしていくことで、重苦しい、たとえば宿命といっていいようなストーリーへ読者を誘う。それが、「ウォッチメイカー」の特徴だろう。
今度こそ、5つ星確定だなと、わくわくどきどきしながら読みすすめていった。
しかし・・・。読みおえたいま、やっぱり、なにかが足りない。
それはあえていえば、T・ハリスの形而上学のようなものだし、「ジャッカルの日」の、緊張感の果てに奇蹟のようにあらわれるカタルシスのようなものだ。
エンタメだからという割り切りをすれば、「石の猿」「魔術師」「ウォッチメイカー」すべてを5つ星にしてもいいだろう。錯綜したレイヤーを幾層にも張り巡らし、一枚、また一枚とそのレイヤーをはがしつつ、スリルとサスペンスをずっとひっぱっていく才能は、唖然とするしかない手腕。引き延ばしのために用意されたブリッジのような中間部も、無難に切り抜けているという印象をうけた。結末は俗にいう「サプライズ・エンディング」ではなく、普通小説のような味わいをもたせたあたりに、苦心の痕跡が見えなくもないな~。
しかし・・・。つぎの一作を期待して、4つ星にとどめておこう。
ディーヴァーなら、オールタイムベスト・クラスの、ヘビー級の超傑作を、これから書いてくれるに違いないと信じよう。まだ、もてる力のすべてを出し切ってはいないのではないか。
表現をかえれば、読者にそういった期待を抱かさずにおかないところが、新作が刊行されるたび、全世界のミステリファンを書店に走らせる、本シリーズのまさに読みどころなのだから。
評価:★★★★
リンカーン・ライム&アメリア・サックスシリーズは、彼の看板出し物で、これが6作目。「所詮はエンタメ。娯楽作品でしょ」という人もいるけれど、ここまでくれば、境界はかなりあいまい。そのくらい、想定している読者のレベルは高いのではないだろうか。
毎回のこととはいえ、このシリーズの登場人物やストーリーテリングのハードアンドビターな味わいは、複雑なアロマいっぱいで、かなりのミステリ通をも唸らさずにはおかない。
リンカーンもサックスも、それぞれの苦しみを抱えている。作者は、キャラクターを造形するにあたって、たいへん重い荷物を、登場人物それぞれに背負わせているのだ。
それが、本書を「大人の読物」にしている第一の要因だろう。
「魔術師」で見せた鋭利な刃物の上を渡っていくような読後感は、本書にはない。かわりに、アメリア・サックスの亡父にスポットをあてて、同じ警察官(刑事)として生きていくことを選んだ、その娘の苦悩をていねいにトレースしていくことで、重苦しい、たとえば宿命といっていいようなストーリーへ読者を誘う。それが、「ウォッチメイカー」の特徴だろう。
今度こそ、5つ星確定だなと、わくわくどきどきしながら読みすすめていった。
しかし・・・。読みおえたいま、やっぱり、なにかが足りない。
それはあえていえば、T・ハリスの形而上学のようなものだし、「ジャッカルの日」の、緊張感の果てに奇蹟のようにあらわれるカタルシスのようなものだ。
エンタメだからという割り切りをすれば、「石の猿」「魔術師」「ウォッチメイカー」すべてを5つ星にしてもいいだろう。錯綜したレイヤーを幾層にも張り巡らし、一枚、また一枚とそのレイヤーをはがしつつ、スリルとサスペンスをずっとひっぱっていく才能は、唖然とするしかない手腕。引き延ばしのために用意されたブリッジのような中間部も、無難に切り抜けているという印象をうけた。結末は俗にいう「サプライズ・エンディング」ではなく、普通小説のような味わいをもたせたあたりに、苦心の痕跡が見えなくもないな~。
しかし・・・。つぎの一作を期待して、4つ星にとどめておこう。
ディーヴァーなら、オールタイムベスト・クラスの、ヘビー級の超傑作を、これから書いてくれるに違いないと信じよう。まだ、もてる力のすべてを出し切ってはいないのではないか。
表現をかえれば、読者にそういった期待を抱かさずにおかないところが、新作が刊行されるたび、全世界のミステリファンを書店に走らせる、本シリーズのまさに読みどころなのだから。
評価:★★★★