二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

グロテスクなものとしての人間たち ~シャーウッド・アンダーソンの周辺

2023年04月25日 | 小説(海外)
■シャーウッド・アンダーソン「ワインズバーグ、オハイオ」上岡伸雄訳(新潮文庫 平成30年刊)


アンダーソンといえば、「想像の共同体」で有名なベネディクト・アンダーソン( 1936-2015)という学者もいるが、今日の話題は、そうではなく、小説家シャーウッド・アンダーソン(Sherwood Anderson, 1876~1941年)を取り上げる。
昔むかし、たしか橋本福夫訳で新潮文庫から出版されていたのを読んだ記憶がある。
そのあと、講談社文芸文庫を手にいれ、長いあいだ寝かせておいた(;^ω^)
ところがこのたび新潮文庫Star Classics(名作新訳コレクション)の一冊として蘇ってきたので、読んでみた。

《マーク・トウェインとヘミングウェイをつなぐ、アメリカ文学を激変させた画期的名作を40年ぶりに新訳! 発展から取り残された町に生きる人々の悲哀を描いた連作短編集。》
《「ワインズバーグ」は実際には存在しない、作者が創造した架空の町です。ひとつの町を舞台とし、そこに住む人々を主役にした連作短篇という形式は、山本周五郎の名作『青べか物語』や宮本輝さんの『夢見通りの人々』、佐藤泰志『海炭市叙景』、川上弘美さん『どこから行っても遠い町』などに脈々と引き継がれています。》BOOKデータベースより

まずは冒頭「いびつな者たちの書」とあるのに、いささか抵抗があったので、2~3年放置していた。
「いびつな者」とは「グロテスクな者」という刷り込みが頭にあった。原文はグロテスクだが、それはふつうに日本人がイメージするものとは違う。
そう訳者上岡伸雄さんが判断したのだ。
日本人は一般的にグロテスクを奇怪な、あるいは気味の悪いという語感でとらえる。しかし、ここでいうグロテスクな者は、むしろいびつな者、風変りな人の意ではないのか、と上岡さんはかんがえた。

そのことはあまりこだわっても仕方がない。
そこにこだわると、さきへ進めなくなる。どーしてもといえば、講談社文芸文庫の小島・浜本訳を読むほかあるまい。
さて本書「ワインズバーグ、オハイオ」だが、最初の3篇
1.いびつな者たちの書
2.手
3.紙の玉

・・・が、圧倒的におもしろかった。いや全25篇(「狂信者」を4部に分けて)のうち、ほかにも佳作といえる出来映えのものは存在する。だけど、どーかんがえても残念ながら“中だるみ”の印象はぬぐえない。
だから、本書は、読みはじめてから、ずいぶんと時間がかかった。途中でやめてしまおうという気分とのたたかいであった、とおもう。
アンダーソンは、わかっていない人のことを書いている。だから、隔靴搔痒の感が、どの作品にもつきまとい、読者をいらいらさせる。そう感じるのは、わたしだけの感想ではあるまい(´・ω・)?

主人公といえるのは、地元新聞社につとめるジョージ・ウィラードという17歳の青年だが、作者は、ワインズバーグという架空の町を設定し、そこに在住する様々な人物を執念深く描くことで、一地方の町のありさまを浮かび上がらせようとしている。
アンダーソンは手さぐりしながら書いている。登場人物をキャラクター化はしていない。したがってわかりにくいのは、当然かもね。

本書のフルタイトルは Winesburg, Ohio: A Group of Tales of Ohio Small-Town Life=オハイオ州の小さな町の生活の物語群となる。短篇連作とかんがえていいだろう。原書の刊行は1919年である。
世界が大きな変貌を遂げようとしている20世紀初頭。都市化、工業化の波に洗われるようになったアメリカ中北部が舞台。
人間とは、かくもいびつな者なのである、と語る「手」や「紙の玉」を読んでいると、アンダーソンの特異な人間認識が露わになる。それは“純文学的”な手応えといえるとおもう。これらの手応えは、小説という形式でしか表現できないものだろう。

わたしは蔵書の中から「アンダスン短編集」(橋本福夫訳新潮文庫、現在は絶版)を探し出した。
これである。


短篇が10作品収録されている。
そのうち「卵」「悲しいホルン吹きたち」は、「ワインズバーグ、オハイオ」の冒頭3篇と比較し得る傑作である( -ω-)
ほかに「灯されないままの明り」「森の中での死」「トウモロコシ蒔き」あたりは秀作といえるレベルで、小説好きなら十分堪能できる。
小島信夫さんが好きになりそうな“グロテスクな”、つまりいびつな人間たちが小説の中を闊歩する。
多少とっつきにくいが、この独特な人物遠近法がクセになる読者がいるかもね。
短篇集がおもしろかったので、つぎの本も手にいれた。


   (札幌にある柏艪舎という聞きなれない出版社から刊行されている)


(本作品には地図が付されている。こちらはWikipediaからのいただきもの)


ほかに、ほんの気まぐれでディケンズの「クリスマス・キャロル」を、村岡花子訳(新潮文庫)で読み返したが、レビューは省略。
超有名作品なので、ほとんどの人は、アニメやマンガ、あるいは児童書で読んでいるだろう。


   (アンダーソンの肖像。グーグルの画像検索からのいただきもの。)



評価:☆☆☆☆

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ベニカナメの花が満開♪ | トップ | 男の背中 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説(海外)」カテゴリの最新記事