二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

安岡章太郎「小説家の小説家論」(福武文庫 1986年刊)にしびれる♪

2019年04月20日 | エッセイ(国内)
安岡章太郎といえば、第三の新人、第三の新人といえば、安岡章太郎・・・であった、わたしの場合(^^;) 
2-3日前、古本屋めぐりをしていて「小説家の小説論」(福武文庫 1986年刊)を見つけ、手に入れ、さっそく読みはじめたら、これがじつにおもしろい。

いわゆる“戦後派”といわれる作家たちが退潮してしまったあと、小島信夫、吉行淳之介、遠藤周作、庄野潤三、三浦朱門などの一群の新人が台頭した。この人たちが、“第三の新人”である。ウィキペディアによれば、これらの作家は《第一次・第二次戦後派が本格的なヨーロッパ風の長編小説を指向したのに対し、戦前の日本において主流であった私小説・短編小説への回帰をはかった点が特色とされる。》とある。
命名したのは山本健吉さん。
このほか、阿川弘之、長谷川四郎、島尾敏雄らをふくめることもある。


  (画像はウィキペディアより拝借。安岡さんは上段左から二番目)

その中にあって、一番好きだったのが、何をかくそう、吉行淳之介さんではなく、安岡章太郎さん。
とくに彼が書く短編が好きで、晩年の作をのぞき、大方は読んでいる(^ー^)ノ
「ガラスの靴」「陰気な愉しみ」「悪い仲間」など、比較的初期にかかれた作品のファンなのだ。
「質屋の女房」をご存じの方はいるだろうか?

最後の数行に、マジックが仕掛けてあって、読者はあっという驚きに撲たれ、何ともむずがゆい苦笑に誘いこまれる。これが安岡流、独特のユーモアなのだ。絶品といっていいだろう。
わたしは古めかしい日本の文学を読んでいて、安岡さんのところにやってくると、まるで郷土に帰ってきたような親密感にひたることができる。

「小説家の小説家論」は安岡さんの作家論を集めたもの。
志賀直哉を筆頭に、谷崎潤一郎、佐藤春夫、梶井基次郎等、総勢十九人の作家について書かれたものが収めてある。
頭のキレのいい評論家が書いたいわゆる「評論」より、わたしには小説家が書いた小説論、作家論の方が、どちらかといえばおもしろく読める。

近ごろでは正宗白鳥の一連の作家論、宇野浩二の「独断的作家論」、小島信夫「私の作家評伝」などがこの系譜に属する(=_=)
その作品のように個性的で、エッセイ的な風味があって、観念論的な視点からではなく、エピソードをつらねて作家の・・・つまり小説家という生きものの核心に迫っていく。

まだ読みおえているわけではないのだが、今回なぜここに取り上げる気になったかというと、本書に収録された「井伏鱒二」を読んで、はじめて井伏文学がわかった・・・よう気がしたからである。
一年ばかり前から、井伏鱒二という人が気になりはじめ、十冊ばかり本を買って、手探りで読みすすめてきたのだが、井伏さんほどつかまえにくい作家はいない。といっていいくらい、歯がゆかった。
「川の話」や太宰治にかんする一連のエッセイをお読みになった方はいるだろうか(?_?)

「井伏さんほど、わかったようでわからない作家はいない」
そのいわば“”なぞ“が、安岡さんの井伏論を読んで、ほぼ氷解した。
「井伏鱒二という作家はこういう人であったか!」
《漂流記が、こんにちの井伏文学を支える主柱の一つであることは、誰の眼にも明らかであろう》と安岡さんは指摘している。

まさにそれである。
井伏文学の核心には漂流記がひそんでいるのだ。そこのところに対する理解がないと、結局、井伏文学をつかまえそこねる。
いままでこういう核心を、ズバリ洞察した文章を読んだことがなかった!
いくつかあるキーワードの中で“”漂流記“こそ、一番大事なものであった。これまでわたしは、つまらない評論家の雑文ばかり、読まされてきたことになる。

・・・というわけで、安岡章太郎を大いに見直した。
福武書店はすでに撤退しているから、本書は幻の書物(大げさにいえば)ということになるであろう。
井伏鱒二に関心がある人は、まず、安岡さんのこの評論、いやエッセイを読め、といいたいのだ。
広島県福山市の生家を訪ねていくあたりの記述には、協奏曲のような、素晴らしいハーモニーが、たしかに鳴っている♪

わたしは「ようやく井伏文学のトバ口に立てたようだ」と思いながら、このエッセイを堪能することができたのだ。



※読みおえていないので、評価はひかえておく。

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