二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

日本中世史から二冊(書評)

2020年01月03日 | 歴史・民俗・人類学
わが家では、今年も日本史の風が吹きまくりそうだ。
そこから二冊いっぺんに書評を書いておこう。


■本郷和人「天皇はなぜ万世一系なのか」(文春新書2010年刊)レビュー

雑誌に連載した記事をまとめたのかと思うくらい、軽いというか、ポピュラリティーのある本である。厳密な論証などはなく、エッセイ風のノリ。司馬さんの書き方に学んだのか、ところどころ脱線する。
すらすら読めていいのだが、読みおえてみると物足りなさが残る。そういう本だと思って読めば、それなりのおもしろさはある。

《平成の御世で百二十五代目、皇統は連綿とつづいてきた。その権力統治構造をつぶさに見ると、あることに気づく。はたして日本で貴ばれるものは「世襲」なのか、それとも「才能」か?日本中世史の第一人者がその謎を解き明かす画期的日本論。》(Amazon BOOKデータベースより引用)

一口でいえば、本郷和人さんは日本人は実力より、世襲を選んだ・・・ということがおっしゃりたいのである(゚ペ)
日本中世史の専門家なので、得意の中世史を中心とした記述が多いが、堅苦しくならないよう、冗談をまじえ、愉しそうに語っている。
世襲が平和をもたらす。世襲をよしとする文化は、伝統芸能の世界ばかりでなく、自民党系の国会議員の中にも、根強い勢力を築いている。安倍総理も、麻生さんも、二世だか三世である。

本書では、藤原氏とその一族、貴族の集団が、中世、近世では、ほとんどすべて世襲であったことを明らかにしている。
親が中納言であればつぎの世代も中納言どまり・・・なんていう、とても閉鎖的な歴史が、日本では連綿とつづいてきた。
そういわれてあらためて周囲を見回すと、あっちでも、こっちでも世襲ばかりが目につく。親の家業や匠の技を息子世代が継ぐというのは、ごく見慣れた光景ではないか!

《朝廷の権力は、ですからまん中に穴の開いたドーナツ状をしていたのかも知れない。足利尊氏の執事、高師直の「天皇は木か金で作って置いておけ。生身の方は島流しにしてしまえ」という暴言は、それでも天皇は必要なんだ、という彼の言外の意をくみとるならば、天皇制の本質を的確に言い当ててもいるのです。》(本書211ページ)

ドーナツ状というのは、首都のまん中にでんと居座っている皇居のことを指している。
いつしかこれが日本の政治の伝統となり、結果的に「万世一系」が成立したのだ。つまり結果としてそうなったということ。明治になって、強引な近代化をおしすすめるにあたって、明治の元勲たちが、その史実を集権国家のイデオロギーとして利用した。
政治をおこなったのは、その周囲に蝟集する薩長閥を核にした政治家たち。
天皇は「うん、そうせい」と、最後の決断を承認するだけ(^^;) 
責任者はいるようでいない政治体制が、太平洋戦争の悲劇を生むことになる。しかし、「世襲」をよしとする日本的な風土は、戦後も少しも変わっていない。

本郷さんは「世襲もいいところはあるんだけどねぇ」というボヤキが聞こえてくるような、微妙な書き方をしておられる。
実力=才能か、世襲か!?
プロスポーツや将棋・囲碁などは、むろん実力主義。カテゴリーによって、使い分けている不思議な日本人。


評価:☆☆☆☆




■細川重男「執権 北条氏と鎌倉幕府」(講談社学術文庫 2019年リメイク)レビュー

前半はなかなかの出来映え。ガッツリと読ませていただいた。
わたし自身が、北条義時という歴史上の人物に関心をいだいていたからだ。
頼朝が開き、義時が、武家政権を盤石なものにした。
その北条義時とは、具体的には、どういう人物であったのか?

だから「承久の乱」について書かれた本を二冊も読んだ。
しかし、それでも、いまひとつ「見えて」こない存在。それが義時であった。
鎌倉時代の基本文献は「吾妻鏡」である。そこからは人間北条義時は、必ずしも・・・というか、まったくというか、見えてはこない。
天皇が差し向けた軍隊に勝利したのは、長い日本の歴史上、義時とその息泰時だけである。三人の上皇を島流しにし、天皇の首をすげかえた。空前絶後の政治的内乱。それこそ「承久の乱」である。

しかし、義時は日記も残ってはいないし、「吾妻鏡」にしるされた片言隻句から、おぼろげなその人間像を推測するしか方法はない。史料が少なすぎ(ノ_σ)
だから執筆者が、その欠けたピースを補うほかない。
《北条氏はなぜ将軍にならなかったのか。なぜ鎌倉武士たちはあれほどに抗争を繰り返したのか。
執権政治、得宗専制を成立せしめた論理と政治構造とは。
承久の乱を制し、執権への権力集中を成し遂げた義時と、蒙古侵略による危機の中、得宗による独裁体制を築いた時宗。この二人を軸にして、これまでになく明快に鎌倉幕府の政治史を見通す画期的論考!》(BOOKデータベースより)

鎌倉政権の本質を可能なかぎりえぐってみせている。そういう意味ではおもしろいところはある。本書ははじめは講談社選書メチエから発刊され、それが学術文庫にラインナップされたのだ。
したがって、評価は決して低くはないのだろう。
承久の乱
蒙古襲来
この二つの危機に、鎌倉政権はどう対処し、乗り越えていったのか!?

細川重男さんは、よく健闘している。今風のいい回しをしたり、現代人にとっつきやすい文体と、原文・現代語訳を交え、読者の注意を喚起しようとつとめている。
だけどなあ、わたしには何か隔靴掻痒の感が最後に残った。
史料不足が決定的。
そこからさき、政治家は一個人でもあるが、そのあたりの人間像が浮かび上がってはこないうらみがあるのだ。

ただ武内宿禰神話の紹介は読みどころかもしれない。
神話化された北条義時。こんな文献があったんですね!
北条政子が神功皇后に擬せられているというのも興味深い。神仏習合の中世。権力と権威が、どうのようにして後世につくられてくのかの見本なのだ。
人間は死ねば神として祀られる。近代明治になっても、この神話的構造が、日本の社会に生き延びているのだ。明治神宮、東郷神社、乃木神社がいい例だろう。

戦後アメリカナイズされ、民主主義の国家になったからといって、日本人の心性はたいして変わっていない。そのことがいいのか、悪いのかという価値判断を下しても、どうにもなりはしない。
社会学の語彙に、集団的無意識とか、社会的無意識・・・ということばが、たしかあったと思うけど、それを連想するのはわたしばかりではあるまい。

後半ややダレてしまった(とわたしにはみえる)が、鎌倉時代と、北条氏の政権について書かれた本をあげたとき、必須の一冊といえるかもしれない。
多少ためらいはあるけど、五つ星評価としておこう。


評価:☆☆☆☆☆

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