二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

昆虫という世界

2008年10月26日 | 座談会・対談集・マンガその他
「昆虫という世界」日高敏隆著 朝日文庫

mixiに書評を書こうと考えていたが、もう絶版になってしまったのか、該当図書が表示されない。日高さんは動物行動学者で、わが国の草分けの一人として名高い学者。一般向けの啓蒙書、翻訳書が多数あり、現「ぐんま昆虫の森」の園長矢島稔さんや、養老孟司さんらとも若いころから交流をもっていた。畑正憲さんは後輩にあたる。
訳書も多く、「社会生物学」関連の本をはじめ、一部で物議をかもした、リチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」の翻訳にも携わっている。しかし、わたしは日高さんの著書を読むのはこれがはじめて。

『かつてギリシアが変身神話の時代であったころ、野山や湖には、若い美しい姿をしたニンフたちがたくさんいた。森や湖の精である彼女たちは、清らかな水辺で楽しくたわむれていた。神話の時代が終わるとともに、彼女たちも姿を消してしまい、森はただの森になった。
けれど、われわれはいまでもニンフたちを見ることができる。春でも秋でも、野でも山でも、われわれの家の片すみにでも、ギリシア神話のニンフたちが楽しそうに、多少おどおどしながら、たわむれているのを見ることができる。』

本書は1969年に「アサヒグラフ」に連載されたものをもとに改訂し、1979年に刊行された。
「昆虫という世界」
読みすすむにつれて、このタイトルが深い意味をもっているのが明らかにされてくる。
ここで「ニンフ」と呼ばれているのは、不完全変態をする昆虫たちの幼虫である。詩的なセンスをもっていたヨーロッパの動物学者が、「ニンフ」と名づけたからである。
また昆虫の親(成虫)は、かつてラテン語で「イマーゴ」と呼ばれていたが、これは英語のイメージの語源。ただし、現在は一般には「アダルト」というつまらないことばになってしまったらしい。

一般人向けに書かれた啓蒙書ではあるが、すばらしいこういった名著が絶版となっているのはたいへん残念である。古本屋をさがすか、「日高敏隆選集」で読むしかないのあろう。
グローバル化によるリバウンドで地域社会の荒廃がすすみ、テクノロジー神話が崩壊しつつある現代のような時代にこそ、われわれはわれが所属する周辺環境を、自然の生態系のなかでとらえなおすことがますます重要になってきているからである。

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