二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「闊歩する漱石」丸谷才一著(講談社文庫)

2014年05月25日 | エッセイ(国内)
今日はヒマなので、書評を一本書いておこう。
丸谷才一さんの「闊歩する漱石」。本屋で「文学のレッスン」を立ち読みしていたら、おもしろかったので、そのまま買って帰った。それがきっかけで丸谷さんの著書を7-8冊買って、そのうち何冊かを読みおえた。アマゾンを参照すると、まだかなりたくさんの本が売られている。お亡くなりになったのは、2012年10月。
文芸雑誌で「巨星墜つ」みたいな論調の追悼エッセイを見かけたが、そのときはまったく彼には関心はなかった。「文章読本」はすごい! これまで二度読んで、そのあともなにか衝動的に拾い読みした経験がある。「後鳥羽院」は、30代の若僧だったころ読み通した記憶があるが、当時わたしの手には負えなかった。
専門的な研究論文みたいで、わたしの読解力では歯がたたなかった・・・ということだろう。
後鳥羽院ではなく、藤原定家を書いてくれたら、もっとおもしろく読めたろうにという感想だけ、わずかに覚えている。
エッセイと小説のきわどい線上に置かれた「横しぐれ」の山頭火もよかったな。

丸谷さんといえば、文学賞のあら方をほとんど総ナメにした文学者として知られ、晩年には文化勲章まで受賞。文壇の大御所として君臨したらしいが、わたしは彼の長編小説は一冊も読んでいない。いずれ1、2冊は読もうか・・・という気分がないではないが、それより優先度の高い本が、ほかに山ほど眠っている。
彼の博覧強記ぶりは、これまたよく知られている。英文学者としてスタートを切り、ジョイスの研究者として有名。しかし、わたしは20世紀文学は、カフカ以外にはたいした興味がない。

そのほか、非常にレベルの高いエッセイと書評を相当数残していて、こちらはある程度おつきあいしている。エッセイストとしてはまちがいなく第一級の文学者だった。対談集を読んでみたら、新たに彼が座談の名手であることも発見! 河上徹太郎さんと吉田健一さんの追悼でおやりになった対談など、腹をかかえて大笑いだった。(「文学ときどき酒」文春文庫所収)
丸谷さんは戦後の文学では大岡昇平を、明治の文学では谷崎と初期の漱石を高く買っている。
本書はその漱石を俎上にのせて、じつに手際よく、いままでだれも口にしたことのない料理に仕立ててある。ああ、なるほどこんなアプローチがあったか。
彼の手にかかると、漱石文学がこれまでとは違った、モダニズムをいわば隠し味としたものだとわかってくる。そうか、漱石は英文学の徒だったとわたしは再認識させられた。
「そうか、漱石って、そういう文学者だったのですね、丸谷さん」と思わず膝を叩きたくなること請け合い。
焦点は「坊ちゃん」「三四郎」「吾輩は猫である」に合わせてある。
「道草」は名作だが、たしかに丸谷流にいえば、辛気臭いことこの上なし。漱石の最高傑作は「坊ちゃん」だと考えているわたしには、眼からウロコの示唆に富む、会心の名評論!


※評価★★★★☆(5点満点 ☆は0.5)

※最近そばに置いてある丸谷さんの著作など

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