二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「復権するマルクス 戦争と恐怖の時代に」佐藤優/的場昭弘(角川新書 2016年刊)レビュー

2018年09月06日 | 座談会・対談集・マンガその他
なかなかエキサイティングな対談、知的刺激に満ちた数時間を過ごすことができた。
的場昭弘さんの本ははじめて読む。
わたしの日頃の問題意識に多くのことばがグサリ、グサリと突き刺さってきたので、さっそく的場さんの「超訳『資本論』」(祥伝社新書)も昨日買って帰った。

本は寝ころがって読むクセがすっかり定着してしまったので、文庫本、新書がいたって重宝(^^♪
マルクスも「資本論」もほとんど知らないという読者には、本書は多少ハードルが高いだろう。入門書ではなく、お二人の知性の鉄人が、マルクスの思想をめぐって真っ向から渡りあっている・・・というより、佐藤さんが、マルクス研究の専門家的場さんに鋭い質問を投げかけ、的場さんがそれにご自分のこれまでの経験・研究の成果をかざして、丁寧に答えている。

《何十年もマルクスばかり読んでいて、いまでも毎日のように読んでいるのに、なぜ楽しいのかというと・・・》(本書282ページ)という発言は、気軽に読み流すことのできない重みをもっている。
わたしが知らない人物がぞろぞろと登場するが、章のうしろに簡単な注釈がついているのが親切。
《「社会主義は死んだ」――そういわれて25年が経過した。しかし、国家と人間の危機を徹底分析したマルクスの言葉は、色褪せるどころか、色鮮やかに現代を映している。戦争か恐怖か? 過剰資本は国家に選択を迫る。私たちの眼前にある危機の正体も、それを超える理想も、共にマルクスから見えて来る》(表紙の「内容紹介」より)

マルクスの初心者向けガイドブックとか、その思想を現代に甦らせようとか、哲学的な研究書とかは各社の新書から、いろいろと刊行されていて、それ自体には未開拓の余地はもうないのではないか、と考えていたわたしの予想を、ものの見事に裏切ってくれた。だから、「エキサイティングな」といってみたのだ。
第四章「資本論を読む」、第五章「マルクスの可能性」。
中でもこの二つの対談は、論じられている内容の尖鋭性が際立っている、とわたしにはおもえた。

マルクスは「経済学批判」の冒頭で《資本主義社会のさまざまな富は商品の集積として現われる。商品の二重性をここから解き明かそう》と書いている。
資本主義分析の核心が、この短い一行にこめられているが、それを踏まえて、的場さんは、こんなことをいっている。

《商品を叩いてみてもそこに共通するものは労働以外なにも見えないから、結局労働が価値を生むというしかないと(マルクスは)説明するわけです》本書212ページ、的場)

《資本主義社会の富とは、さまざまなものをごった煮にしたような、いわく言い難い、計り知れない、謎をもった、そういう商品の集積として出現すると(資本論は)いうわけです》(本書212ページ 的場)

《現在、金融危機による国家破綻で一番大きな問題になっているのは、国家が税金をもってしても、支払えないほど公債を発行しているということです》(本書248ページ 的場)

《労働力商品だけが不平等商品です。そのキーを握るのが、労働者の賃金が彼らの再生産費であるということ。つまり労賃の最低が、(労働者の)再生産費によって規定されている》(本書290ページ 的場)

労働者の最低賃金は何によって決まるのか!?
これはわたしにとっては、長年にわたる謎であった。佐藤さんの著書の中で「労賃の最低が、(労働者の)再生産費によって規定されている」と書いているのを読んだとき、長年の謎が解けたと思ったが、この考え方の大元(おおもと)は、「資本論」そして、的場さんのことばなのである。
時給850円とか1000円とかで働いている非正規雇用の人たちは、なぜそういった賃金なのか、疑問に思わないのだろうか(?_?)

日本的な特殊事情が存在するとはいえ、グローバル化の推進がさらなる社会の階層化をおしすすめ、新しい貧困層を生みだしつつある。
生活保護者はむろん、年収250万以下という人たちがこの貧困層に該当するのだろう。こういった人たちは、ごく単純化していえば、一握りのグローバル企業・大資本家によって、収奪をうけているのだ。

佐藤さん、的場さんは、現代という時代の半ば隠された深層を暴きだすため、未完ではあるが、これまでの思想の最高の成果たる「資本論」を、長いながい時間をかけて読んでいる。
世界中で一番読まれているのはいうまでもなく「聖書」だが、そのつぎは「資本論」であろう、日本だけの現象なのかも知れないが。
対談したお二人の問題意識が、二十一世紀の現代を・・・階層化がすすむ現代日本の深刻な政治的・社会的・経済的状況を反映し、その衝迫力が電流となってほとばしり、読み捨てできないすぐれた価値を本書にもたらしている。


  (二冊ともamazonのカスタマー評価が低いのが不可解)


評価:☆☆☆☆☆
※ 的場さんの発言中、( )内はわたしがことばを補ったもの。

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