二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

旅へのあこがれ(ポエムNO.2-19)

2013年09月01日 | 俳句・短歌・詩集
<天空の火事>


そこからさきは飛び越えることができない断崖となる。
ある猛暑の日暮れ方 きみは心をいれかえて
時計草を育てる腐葉土のたくましさを見習うべくジャンプした。
しかし着地したのは 元いた場所からそんなにははなれていなかった。
断崖はなかったのだし
きみはジャンプしなかった。
五年か十年 とにかくずいぶんと時が流れてから
その事実がなんだかわかってくる。

本をとじて 町へ出よう。
一つの町からつぎの町へと。
途方もない大きな唇からつぎつぎとことばが発せられ
きみを取り囲み 追いかけてくる。
新聞であったり TVであったり スマホであったり。
ほんの二日三日でいい。
きみは耳をふさぎ
無意味な侵入者を拒否する。
陸上選手のように腕をわき腹におしつけて。

ああ 静かだな。
こんなに静かでいいの?
透明な螺旋階段が見えるけれど
あれはどこへ
だれの心へ下りていく階段だろう。
あのあたりまで引き返してみる。
明後日の方角では火災が起こっている。
だれの家が燃え だれが泣いているのだろう?
十年前のきみ・・・だとしたらもう救い出せはしないが。

ひとしずくの涙の中の銀河を想像しよう。
数万頭のアザラシの中の一頭がきみに見えるか?
ほんとうに
ほんとうに見えるか。
そこまでは歩いていこう。
分厚い楽譜のはしっこの一個の音符となって
きみはこの時代のポリフォニー へんてこりんな音楽の中に立ち尽くし
そしてそこから歩き出す。
たくさんの たくさんの螺旋階段を見上げたり
見下ろしたりしながら。

忘れていた一台のクラシックなメカニカルカメラが
きみの夢を切り裂いて遠くからやってくる。
りんごのようにころがっているやさしさを蹴飛ばし
蹴飛ばしして きみはある日の暮れ方
ラスコーリニコフの眼つきをして振り返る。
彼はどんなにあがいても 「罪と罰」の外には出られない。
しかし きみはきみを育てたこの町から出ていくことができる。
旅のおわりに薄っすら空にかかる虹を想像しながら。
そこまでは歩いていこう。

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