ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

トゥ・リブ・アゲイン

2019-05-19 15:10:16 | 映画

 

(これは2018年3月5日の記事です)

amazonプライムで配信されているHBO制作映画「トゥ・リブ・アゲイン」がよかったので紹介します。

TV映画として制作されたものらしく、ネットで検索してもamazonプライムでしか出てきません。

先日紹介した「ルーム」と同じように、これも16年間もの間、実の母親によって監禁されていた少女の話です。実話に基づくストーリーというところも同じ。

高校生の頃に、ボーイフレンドが出来たというだけの理由で、母親になじられ監禁されたまま16年もの間、日も差さない暗い部屋に閉じ込められたカレン。
部屋の乱雑さは凄まじく、とても人間の住む場所とは思えない。

このカレンの母親がすごい。
スティーブン・キングの「キャリー」の母親のように、狂信的な母親というのはアメリカではよくあるタイプの毒親なのだろうか。
彼女はカレンが精神病だと信じて疑わない。なぜなら自分の姉がそうだったから。しかも 他人の意見を決して受け入れようとしないところ、やはり狂信的で異様です。

かくして、健康で何の異常もなかったカレンは母親に監禁され続け、何度か逃亡するも捕まり、再び母親のもとに戻され、PTSDを発症してまさに精神病と診断されるようになります。
異常なのは母親の方なのだけど、周囲の人たちは見て見ぬふり。おまけにカレンに関する調査書類まで行方不明という行政の無能ぶりも加わり16年もの間見過ごされてきたわけです。

彼女を助けたのは、カレンと同じ年ごろの娘を交通事故で亡くしたケースワーカーのアイリス。彼女は、もしかして自分は娘とカレンを混同しているのだろうかと悩みながらもカレンのために尽力します。純粋で一本気な、勇気と行動力のある女性です。

こういうケースでは、実の母親というところが非常に厄介。
母親なら子どもを愛しているはずという世間常識があるから。
でもその常識は時に疑ってかかる必要があります。なぜなら、その愛は自己愛の一種かもしれないから。

その区別は難しく、他人にはほとんど判別がつきません。そういう母親たちは世間的にはうまく立ち回るのが常で、誰も気づかないからです。
大半の人は母親の言うことが正しいと思いこみ、疑うことすらしない。
従って、誰かが気づいてあげない限り、子どもは虐待され続けることになります。アメリカだけではなく、日本でもこうしたケースは多いと思う。

カレンの母親はおそらく自己愛性人格障害といった類の精神疾患があてはまるのではないかと思われますが、本人が困らない限り精神疾患とは認められないので、母親を説得しても無駄です。
とにかく母親から引き離してカレンを再生させることに専念するしか、カレンを救う道はないのです。

けれどもカレンを引き離しても、しつこく娘を取り戻そうとする母親。

「私は母親なのよ!」

この言葉は母親にとっての金科玉条、錦の御旗です。こう言えば誰も疑ったりしない。子どもにとって母親以上にすばらしいものはない、と世間では思われているから。

母親はカレンを取り戻そうとして誘拐しますが、自宅で監禁するのはさすがにヤバイと思ったのか、カレンを精神病院に入れてしまいます。
娘の保護責任者となり障害年金を手に入れるためか、あるいは世間の同情を集めるためか、どちらにせよ、娘を思ってのことではなく、どこまでも身勝手な行動なのですが、それさえ見抜けない医師やケースワーカーたち。

「ドラゴンタトゥーの女」でもそうだったけど、えてして専門家というのは騙されやすい。カレンにはどう見ても統合失調症の症状はないのに、暴力的というだけで統合失調症と診断され大量の薬を投与されます。

ここでアイリスの力が試されます。
アイリスは周囲の反対にもめげず、カレンは精神病ではないと断言し(なぜならアイリスと共に暮らし始めてから、カレンは自分を取り戻しつつあったので)、彼女を病院から解放すべく奔走します。

こういう人がいないと、カレンのような人たちは救われない。
そして、「ルーム」でもそうだったけど、ここでもカレンの母親を糾弾することはしない。なぜならカレンを救うほうが先だから。

日本でも監禁事件は発生していますが、親による監禁はもう少し緩いケースが多いのではないでしょうか。
逃げようと思えば逃げられるけど、親のことを考えると逃げられないと(洗脳され)思い込む等。

いずれにせよ、親による(無意識の)コントロール下にいる子どもたちは想像以上に多いと思います。気付くためにはアイリスのような人が必要です。

人間の心というのはとても複雑で、外見だけで判断すると間違いを犯すことになるかもしれない、ということを肝に銘じたいと思います。

カレンが馬の出産を手伝うシーン、生まれた仔馬が牧場を走りまわるシーンが印象的です。

メジャーじゃないけど、心に残る映画です。

コメント
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