この映画について書くのは、二度目です。
今回見て、改めていい映画だなあと思ったので、同じような内容ですが、書いてみたいと思います。
ストーリーを知っているせいか、もう冒頭から涙があふれてきます。
田舎から東京に出てきて、寂しい思いや辛い思いをしたことのある人なら誰でもそうなるでしょう。エイリシュに感情移入し、ああ、私もそうだった、エイリシュ頑張れ! と応援したくなります。
私が四国の片田舎から上京してきたのは15歳の夏のことでした。
母と一緒だったし、まだ中学生だったので、エイリシュとは事情が異なりますが、田舎から出てきた少女が都会で味わうみじめさや辛さは、やはり独特のもので、世界共通なのでしょう。
さらにこの映画では、アイルランドから見知らぬ世界にやってきて、悪戦苦闘しながらも自分の人生を切り開いていく勇敢なエイリシュの姿も描かれます。
エイリシュがアメリカに上陸して、入国審査を通過し、ドアの向こうの光あふれる世界へ一歩を踏み出すシーンは、何度見ても素晴らしい。
ああ、私も若かった頃、エイリシュみたいに未知の世界に飛び出していきたかった、どんなに行きたかっただろう・・
それを思い出すと、年月の経過の残酷さを思い知らされる気もします。
辛いことの多い移民ですが、それでも前を向いて人生に果敢に挑戦しようとするエイリシュは素晴らしい。でも、何があっても大丈夫、だって、若いってことはそういうことだから。
そしてまた、二つの故郷の間で揺れ動くエイリシュ。多くを語らない母。 自分の辛さを決して表には出さず、静かにやさしく、けれども厳しくエイリシュと向き合います。激しい口論や感情の行き来がない分、余計に見る者の気持をゆさぶり、激しい感情を引き出します。
この物語を書いた脚本家タダ者じゃない。
アイルランドとNYブルックリンという対照的な世界を描き分け、あなただったらどっちを選ぶ? と見る者に問いかけてもいます。
そしてまた、故郷の持つ魔法。
人は生まれ育った土地や人々と深く繋がっていて、その縁を断ち切るのは容易ではありません。
ブルックリンにトニーを残したまま、魔法にかかったエイリシュは故郷で暮らすことを本気で考え始めます。
まるで、「リップ・ヴァン・ウィンクル」のようなお話でもあるんだなあ。
そして、再びNYに向かうエイリシュは、初めてアメリカを訪れた時の田舎の少女ではもう全くなくなっていたのでした。
時を置いて何度でも見たくなる映画。
宝物、といってもいい映画です。