壁際椿事の「あるくみるきく」

東京都内在住の50代男性。宜しくお願いします。

『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤著)読後記

2013年01月07日 | よむ

『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤著)

10年ほど前になるでしょうか。三菱トラックによるタイヤ脱輪事件がありました。それをモデルにした小説です。

2段組み、500ページ近い大作ですが、一気に読み上げました。それだけ面白い。

同書の自動車メーカーは、ホープ自動車。現実の三菱はスリーダイヤ(三つの菱)ですが、ホープ自動車の社章はスリーオーバル(三つの長円)です。

2012年末にも、現実の三菱はリコール隠しをし、発覚し、批判されました。一体どうしたのでようか。

三菱も三菱ですが、ユーザもいい加減に学ぶべきだと思います。

(参考)
http://toyokeizai.net/articles/-/12227




『戦後史の正体』(孫崎享著)読後記

2013年01月07日 | よむ

『戦後史の正体』(孫崎享著)

初めて聞く話ばかりで、かなりショッキングな内容でした。

太平洋戦争終結後の日米関係について、日本の政治家や官僚を、対米追随派と自主派に分け、ズバズバ切り取っています。明快です。

最初の追随派は吉田茂。自主派は重光葵。その路線対立から筆を起こし、つい先日の民主党政権(鳩山、菅)まで論じています。

著者のスタンスは、自主派です。

アメリカも内部に政治家の権力争いがあり、日本にも政権内部に主導権争いがある。その前提で、同書の内容を的確に記している部分があるので、以下、引用します。1)から4)です(一部改編)。
1)米国の一部の勢力が、日本の首相の政策に不満をもつ。
2)日本の検察が汚職などの犯罪捜査を、首相本人ないし(首相の)近辺の者行う。
3)マスコミがその汚職事件を大々的に取り上げ、政治的、社会的失脚に追い込む。
4)(アメリカは)次の首相と連携して、失脚した首相の復活の可能性を消す。

例えば、田中角栄はロッキード事件で叩かれて弱体化したし、首相ではないが小沢一郎は陸山会事件で叩かれました。

検察(特捜部)は、GHQ統治下の日本で、旧日本軍の隠し財産を探し出し、GHQに差し出すための組織としてスタートしたそうです。アメリカとの密着度が高いのはむべなるかな。

また、アメリカの姿勢を的確に表している部分があるので、以下、引用します(一部改編)。

「将棋の盤面を考えてください。米国は王将です。この王将を守り、相手の王将を取ることから逆算し、全ての戦略が立てられます。米国にとって日本は「歩」かもしれません。「桂馬」かもしれません。ときには「飛車だ」といってチヤホヤしてくれるかもしれません。役割は状況によって変わるのです。

しかし、どんな駒であっても、国際政治というゲームのなかで、米国という王将を守り、相手の王将を取るために利用されることに変わりありません。状況次第では見捨てられることもあります。王手飛車取りをかけられて、飛車を逃がす棋士はいないでしょう。一瞬のためらいもなく飛車を切る。当たり前の話なのです。

対戦相手の王将は、ときにソ連、アルカイダ、中国、イランと、さまざまに変化します。それによって日本も「歩」になったり「桂馬」になったり、役割が変わるのです。」

具体的には、終戦の直後は、アメリカにとって日本は、捨て駒でした。再び軍事大国とならないように、工場設備などを取り上げて海外に移設。国力を削ぎ、戦前に日本が植民地にしていた国より生活レベルを下げる、というのがGHQの政策でした。

ところが、すぐに東西冷戦が始まります。相手の王将はソ連で、日本は共産圏の防波堤の役割が期待されます。さしずめ「飛車」でしょうか。その後日本は、朝鮮戦争で特需があり、経済的な繁栄を続けます。そうしているうちに、東西冷戦の終結。この時から日米関係は変わる。今から20年強前のことです。

にもかかわらず、対米ベッタリ姿勢を続けるのは、いかがなものか。利用されるばかりでなく、自らが王将になれ(自ら考えよ)。著者が言いたいのは、そういうことでしょう。

新聞は、当否はともあれ客観報道といいますよね。教科書も、特定の勢力に肩入れする記述はできない。でも、この本は旗幟鮮明にし、異色です。

著者は元外務官僚で、国際情報局長まで務めた方です。そうした経歴の方が内幕を暴露する。だから内容は、真実に近いと考えられる。かつては、墓場まで持って行かれる話ですが、時代の節目ゆえか公になった、という感じです。

高校生でも読める平易な記述ですが、内容はぎっしり。戦後の日米関係史に興味のある方は、ぜひ。



『硫黄島に死す』(城山三郎著)読後記

2013年01月07日 | よむ

正月休暇は、かなり読書三昧でした。

『硫黄島に死す』(城山三郎著)

「硫黄島に死す」は、太平洋戦争前のロサンゼルス五輪の馬術競技で、金メダルを取った西竹一が主人公。ダンディな人で、男爵だから「バロン西」と呼ばれていたそうです。騎馬兵の彼ですが、時代とともに馬は戦車に置き換わっていきます。

オリンピックの10数年後。太平洋戦争は終局。首都の守備隊として、西は硫黄島に赴任する。そこで最後、ピストル自殺するんです。悲しい話です。

タイトルの小編のほか、所収は「基地はるかなり」「草原の敵」「青春の記念の土地」「軍艦旗はためく丘に」「着陸復航せよ」「断崖」。「硫黄島に死す」を含めて前5編は太平洋戦争がテーマ。「着陸復興せよ」は、その10数年後の、草創期の航空自衛隊がテーマです。

どれも、味わい深く、淡々とはしていますが、著者の強い反戦思想が伝わってきました。著者は海軍特別幹部練習生として終戦を迎えています。

「あわあわ生きることは、所詮、無心な小島くらいに許されることであった。人生ははるかにきびしく、欲望も知恵も狡さも必要であった。人生を呑んでかかるような生き方でなくてはと、おくればせながら(主人公の白沢は)思った。」(「基地はるかなり」より)

勝負に勝って試合に負ける。そんな人生を重ねてきた自分には、白沢の感慨がひしひしと浸みてきます。もっとも、「試合に負けて勝負に勝つ」と前後を逆にすると、プラスイメージになりますが。

「あわあわと」は、どんな擬態語でしょうか。新明解にも広辞苑にも載っていませんでした。