壁際椿事の「あるくみるきく」

東京都内在住の50代男性。宜しくお願いします。

『粗にして野だが卑ではない』(城山三郎著)読後記

2013年01月31日 | よむ

『粗にして野だが卑ではない 石田禮助の生涯』(城山三郎著)を読みました。

石田氏は、明治19年、西伊豆の松崎の網元の次男として生まれました。三井物産に就職し、アメリカ、インド、満州、再びアメリカと長く海外駐在を経験し、業績を上げ、社長も務めています。その石田氏の伝記、聞き書きです。

退職後は、神奈川県の国府津で、ブレイン・ファーマー(頭を使って農業する)になり、牛やヤギを飼って暮らしますが、請われて、第5代の国鉄総裁になります。国鉄はいろいろ問題が多く、経営が難しく、誰も引き受け手がいないんでした。財界人からの総裁起用は初めて。このとき年齢、78歳。

明治男の一徹さ、長い海外経験で身に付いた合理主義。なかなか痛快なリーダーです。

業績は多々ありますが、一つだけ紹介します。青函連絡船です。それまで戦時輸送に使っていた古い船を利用していたのですが、安全上、不安とし、新型船に置き換えていくのです。1艘10数億円するのですが、横揺れ防止の装置を付けるのに1億円。それを、何艘にも、惜しみなく付けて行きます。

同じ国営企業である日本たばこ(現JT)。当時は、国鉄と給料は同じだったとか。これに対し、週刊誌記者に、「こちらは24時間365日、安全に気を付け、輸送しているんだ。いざ故障となったら、いつでもすっ飛んで行く。たばこより、高い給料を取って当然だ」と言い放つ。

これで、「へんな爺さんが来た」と警戒していた国労の心をつかむ。一方、日本たばこからクレームを持ち込まれるんですが、常に正論で応対し、相手を「仕方ないな」と思わせてしまう。

こんな経営者がいたんだ。一種、清々しい読後感です。

70歳になっても、ヤング・ソルジャー。経営を志す人、リーダーシップつについて学びたい人は、ぜひお読みください。



『ピカソは本当に偉いのか?』(西岡文彦著)読後記

2013年01月31日 | よむ

『ピカソは本当に偉いのか?』(西岡文彦著)を読みました。

絵画って、いくら高価な絵を持っていても腹は膨らみません。いわばブランド品と同じ。見せびらかしてナンボです。でも、普通の感覚では見せびらかせないですよね。チラ見せするのがせいぜい。しかし、絵画は堂々と見せてOK。これが、絵画が求められる理由だとか。

アメリカ経済成長期に、アメリカ資本がフランス絵画界に流れ込み、絵画を買い占め、価格高騰を招いた。実質と価格がアンバランスなブランド品となった。

金がだぶつき、土地や証券への投資が過ぎ、バブルが起こった。これと同じ構造です。過去、お花畑の鑑賞はいいが、腹の足しにならないチューリップバブルもありました。

それまで美術品は、教会の正当性の示威、王室の権威づけのため、また民衆の生活に直結した装飾品(民芸)として存在していました。それが、16世紀の宗教改革で教会の権威が落ち、18世紀のブルジョア革命で王権が崩壊し、美術は保護者を失った。

そこにアメリカ資本が流れ込み、ブランド品として生き延びる道を得た。教会、王室、そして民芸と切り離され、美術品は、美術館に収められるようになった。

かつて、神による天地創造時の姿こそ理想で、その後の人類の成長は堕落だと考えられていました。しかし19世紀半ば、ダーウィンの「進化論」の登場によって、変化は良きこととの認識が広まります。これも、旧来の美術からの大変化である「前衛」が支持される理由となりました。

宗教とも王権とも民芸とも切り離された美術品は、どうなるか。それは、もはや、美術のための美術品となるしかありません。美術館に収められるための美術品となる。

以上、こういう内容の本でした。以下は、ちょっと横道にそれます。

スターとは何か。その業界が勃興するとき、業界から求められて誕生する人物で、その業界における最初にして最後の巨人。

前衛美術界のピカソがそうです。ハリウッド映画におけるマリリン・モンロー、ポピュラー音楽界におけるビートルズ、ヘビー級ボクシングのモハメッド・アリ、日本ではプロ野球界の長嶋茂雄や、マンガ界の手塚治虫……。

彼らがスターになりえたのは、もちろん実力あってこそ、ですが、それ以上に時代が彼らを求めた、という理由が大きそうです。

「それぞれの領域で後続するスターが生まれるたびに、彼らの「再来」と呼ばれることはあっても、真に彼らに匹敵するスターが生まれてくることは二度とないでしょう」(引用)

なるほど、と思いました。つまり、○○2世と呼ばれる人物は出てきても、○○1世は登場しない、というのです。ということは、もし○○1世が登場するということは、業界が変革している証といえるかもしれません。時代を読む指標になりそうですね。

ですます調の丁寧な表現ながら、やや難解でした。ぼくの脳が老化しているのかな。タイトル通り、ピカソはなぜ偉いか、に疑問ある方はぜひ。