壁際椿事の「あるくみるきく」

東京都内在住の50代男性。宜しくお願いします。

『あの戦争から遠く離れて』を読みました

2009年08月11日 | 読書
あの戦争と、その後の中国と日本の政治に翻弄された中国残留孤児。まだ中国残留孤児という言葉がなく、「満州孤児」と呼ばれていた時代に、主人公の城戸幹(中国名、孫玉福)さんは、検閲に気を使いながらも、日本の赤十字社に百数十通もの手紙を書き送ります。運よく、1970年に帰国を実現。愛媛の実家に迎え入れられ、日本の会社に勤め、日本人の女性と結婚し、一男二女をもうける……。

この物語の主人公、城戸幹さんの次女が書かれたノンフィクション、『あの戦争から遠く離れて――私につながる歴史をたどる旅』(城戸久枝著、情報センター出版局)を読みました。

それにしても戦争と政治が、いかに人々の普通の生活を飲み込み、濁流に押し流してしまうかを痛感しました。その濁流に抗そうとする、城戸さんの意志と行動力のすごさにも感動しました。また、中国人の家族愛、同族愛の篤さにも驚きました。著者が、父の生まれ育った村を訪ねると、会ったことが数度という従兄弟たちが、まるで何年も一緒に暮らした家族のように歓待してくれるのです。

第一部はお父さんの中国時代から日本での生活。第二部は著者自身がお父さんの生活の跡を追っていく物語です。大学で中国語を専攻、長春大学への2年にわたる留学、数度にわたる渡航……。お父さんにつながる足跡を、丹念にたどる行動力、取材力にも脱帽です。

同書は、まだ若いフリーライターの第一作で、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。城戸久枝さんは、いまも中国残留孤児問題を追いかけているそうです。今後の活躍が楽しみです。