【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

亡国

2014-08-22 07:31:56 | Weblog

 「亡国論」でネット検索をかけてみると、いろんなものがありますね。「女子学生」や「女子大生」は私も覚えていますが、「TPP」「郵政」「ゆとり教育」「医療費」「反日」「消費税」……いろんなもので日本はばんばん滅びてしまいそうな勢いです。それにしても、これだけの数の亡国論に襲われていてまだ滅びないとは、日本は意外と生存能力が高い国だったのでしょうか。

【ただいま読書中】『佐田介石及びランプ亡国論 抄』内田魯庵 著、 (日本の名随筆(49)奇書 収載、池内紀 編)、作品社、1995年、1748円(税別)

 「ランプ亡国論」について検索したら、内田魯庵が1921年に発表した『貘の舌』に収載された一編に出くわしました。「戦争後の物資欠乏」に対して唱えられた「自給自足論」を題材としたエッセイです。
 「戦争」とはおそらく第一次世界大戦のことでしょう。戦後は大正バブルとなりましたが、1920年に戦後恐慌が発生します。日本は19年から輸入超過となっていましたが、20年には輸出が好調だった綿糸や生糸が半値に暴落、株価も1/2~1/3に暴落しています。そういった世相を背景に、日本の軍部にはたとえば宇垣一成のような「総力戦」のためには自給自足体制が肝要、と唱える人がいました。内田魯庵は、そのことを意識しているようです。
 著者によれば、佐田介石が唱えたランプ亡国論は、単なる西洋排斥論ではなくて純粋に経済的な見地からの「亡国論」だそうです。ランプのような新しい「舶来品」が日本に広がると、「外貨流出」と同時に「在来の産業滅亡」という二重の損失が日本を襲います。介石はそこに「数字」を持ち出して自身の論の根拠としました(著者は「数字のイリユージヨン」と切って捨てていますが)。ランプと石油に投じられるコストは、介石の試算では1年に2400万円。在来の産業では、行灯や菜種関連のものが大打撃で、その損害が6~7000万円。なるほど、国が滅びそうですね。
 そういえば、蛍光灯が普及した時代に、衰退することが確実の白熱球業界が“損害賠償の訴訟”を起こすだの起こさないだのの騒動を書いた小説も読んだ覚えがあります。
 著者は「産業が変遷することを無視して、過去に固執するのは間違った態度」といった感じでエッセイを書き続け、「ランプを受け入れなかったら、今でも行灯生活だったのか?」とマツダ・ランプ(白熱球)の下で首を傾げています。
 そういえば最近は食糧自給率の数字が低いことが騒がれていますが、輸入食品を否定して自給自足を絶対視するのは、結局「ランプ亡国論」と似た論調になってしまうのでしょうね。とりあえず「海路の安全」のために世界平和を願うことにしておきましょうか。あるいは食糧を供給してくれる「味方」を世界中に増やす努力をするか。
 なお「ランプが国を滅ぼす前に、ランプが滅びてしまった」と述べたのは、宮武外骨(『震災画報』)です。



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