経営のプロは、決算書の数字の羅列をざっと見るだけでその会社がどんな状態でどこにどんな問題があるかを見抜きます。数字にはそれを生み出した「出自の物語」があり、読める人はそれが読めるのです。
医者が患者の診断をするのもそれに似た作業でしょう。熱が37度とか顔色が悪いとか、それだけ見たら大したことはない症状でも、それを生み出した「物語」を見抜ける人は見抜くのです。
言葉もそうですね。文字列検索ロボットのように単に「ことばの文字列の表面」だけ見て評価する人は、たぶんその言葉が語る「物語」は読まないでしょう。もったいないと思いますけどね。
【ただいま読書中】『はせがわくんきらいや』長谷川集平 作、ブッキング、2003年(07年8刷)、1600円(税別)
「復刊ドットコムさん、ありがとう」の絵本です。
ひょろひょろで弱虫で泣き虫で何をしても上手くできない「はせがわくん」は、遊び仲間から「はせがわくんきらいや」と言われています。
しかし「きらいや」とずばっと言われたら、どきっとしますね。言葉が荒々しいだけではありません。絵も荒々しい。漫画に劇画があるように、絵本にも劇絵本があるのか、と私は思いました。
……だけど、これはいじめの話ではありません。だって子どもたちは「はせがわくんきらいや」と言いながら、辛抱強く一緒に遊び続けているのですから。すぐにへたれてしまって泣きながら動けなくなる長谷川くんを、おんぶして運んだりするのですから。
「長谷川くん もっと早うに走ってみいな。長谷川くん 泣かんときいな。長谷川くん わろうてみいな。長谷川くん もっと太りいな。ごはんぎょうさん食べようか。長谷川くんだいじょうぶか。長谷川くん」のところで私は不覚にも泣いてしまいました。だけどその直後にやっぱり「大だいだいだいだあいきらい」となるのですが。
「はせがわくん」は、この絵本の作者自身のことでもあります。そしてこの絵本は、森永砒素ミルクで体を壊されてしまった子供が、地域でどのように生きたかの物語でもあります。
もう一回言います。復刊ドットコムさん、ありがとう。
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