【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

2009-09-27 19:22:10 | Weblog
 「知識」と「知恵」とは違う、はよく言われることですが、それでも「知」でつながっています。知恵を働かせるときに知識が役立つことはあるでしょうし、十分な量の知識がそのまま知恵に転化することもあるでしょう。
 しかし、単なる情報は「知」とは無関係です。知恵のある人が情報を取り込めばそれを知識や知恵に役立たせることはできるでしょうが、それがなければ人はただ情報の海に溺れるだけでしょう。

【ただいま読書中】
魔法の館にやとわれて』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著、 田中薫子 訳、 佐竹美保 絵、徳間書店、2009年、1800円(税別)

 クレストマンシーシリーズの5冊目です。
 舞台はイギリス。ただし、イギリス・アルプスがあり小ライン川のほとりに首都ラドウィッチがある「イギリス」です。そのイギリスの山間の小さな町に住む12歳のコンラッド少年は、前世の悪い業のために今年中に死ぬ、と魔術師の叔父に宣告されます。それを逃れる方法は、「可能性の糸」を好きに引っ張ってこの世を都合良く変え続けているストーラリー館に奉公に上がり、そこでコンラッドが前世で殺すべきだった誰かを殺すこと。しかもその“使命”は、町全体を救うことにもなるのです。
 採用面接試験でコンラッドは自分より少し年長の少年クリストファーと出会います。二人は主人近侍見習いとして採用されますが……クリストファー……クレストマンシーの?
 クリストファーには彼自身の“捜しもの”がありました。そのためにわざわざ放浪者の馬車に乗って第12系列から第7系列にまで移動したのです。その捜しものの気配があるのはスターラリー館。ところがどうもその中心がつかめません。コンラッドも誰を殺すべきなのかがわかりません。さらに自分に魔法の才能があることに気づきます。それぞれの捜しものを探し続けるうちに、世界は何度も「可能性の糸」を引かれて姿を変えます。館はまるで世界の断層に立っていて地震のようなものが起きるたびにちょっとずつ違う世界に触れてその影響を受けているようなのです。さらにそこには人為的な変化もあります。人間の欲に基づく科学的な魔術です。コンラッドはそのあさましい姿を見て気分が悪くなります。やがてクリストファーは姿を消し、館はてんやわんやの騒ぎとなります。館の息子と娘に同時に結婚話が始まったのです。これまた欲に基づく話なのですが。ところが二人はそれに逆らい、大広間は大混乱。そこへ王室づき特別監督官がやってきて……
 因果は巡る、輪廻の環、とか呟きたくなります。思春期のクリストファーがどんな人間だったか、たっぷりわかりましたが、本書は子ども向けにしてはちょいとビターな隠し味があちこちに仕込まれています。そういったことはあまり気にせずに、魔法の世界のファンタジーを楽しむのもアリですが。




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