【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

栞の紐

2018-05-21 06:59:59 | Weblog

 今日の本を手に取った瞬間、私は違和感を感じます。新しい文庫本なのに、栞の紐がついているではありませんか。文庫本では、昔はあるのが当たり前、今は無いのが当たり前、になっているわけです。ネットでちょっと調べると、21世紀になってからも文庫でこの紐がついているのは新潮文庫だけ、という記述を見つけました。ということは、私が新しい新潮文庫を読むのは久しぶり、ということに? あらあら、昔はけっこう熱心な読者だったんですけどね。新潮社さん、ごめんなさい。

【ただいま読書中】『大渦巻への落下・灯台』(ポー短編集Ⅲ)エドガー・アラン・ポー 著、 巽孝之 訳、 新潮社(新潮文庫)、2015年、490円(税別)
目次:「大渦巻への落下」「使い切った男」「タール博士とフェザー教授の療法」「メルツェルのチェス・プレイヤー」「メロンタ・タウタ」「アルンハイムの地所」「灯台」

 「大渦巻への落下」……「一夜にして白髪に豹変」で有名な話です。ただ、久しぶりに読むと、「数字」がやたら目立つことに気づきました。水深や時刻など、18世紀までの小説ではあまり重視されていなかった「数字」が散りばめられ、さらに、回転運動の中での物理法則、なんてものまで登場します。20世紀以降の言葉を使うなら「文系の世界に理系が持ち込まれた」となるでしょうか。今の読者の目から見たら別にどうと言うことはありませんが、19世紀の読者にはずいぶん新鮮(新奇)に感じられたことでしょう。
 「使い切った男」……なんとサイボーグが登場します。ただそれは「小道具」で、本作はユーモア+不条理短編、という新しい試みだったのだろう、と私は感じます。
 「メルツェルのチェス・プレイヤー」……「チャールズ・バベッジのエンジン」よりも優れた「チェス・プレイヤーの自動人形」に関する思索ですが、これが将来の人工知能についての予告のようになっています。
 「メロンタ・タウタ」……気球は19世紀には最新のテクノロジーでしたが、本作の舞台2848年でも大きな気球(客が何百人も乗っている)がのろのろと旅をしています。ずいぶんレトロな未来像、と思いますが、海では磁力推進船が航行しているって、これはリニアモーター船のことですか? 地球では共和制は滅んでいます。月面都市ができています(気球からの望遠鏡でそれが確認できるとは、すごい解像度の望遠鏡です)。で、このレポートは、瓶に入れられコルク栓をされて海に流される……やっぱり「レトロ」な未来でした。
 「灯台」……たった4ページの未完の短編です。一人で灯台に閉じ籠った男が3日かけて灯台の中を見て回るだけ。ただそれだけの作品なのですが……これが大きな影響力を発揮して、ついにはオマージュとして『霧笛』(レイ・ブラッドベリ)を生み出し、するとそこから「ゴジラ」も登場することになり……あらあら、これはたしかにとんでもない作品でした。