飛鳥への旅

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死者の書の旅 その9(小説「死者の書」第17章”山越しの幻像”)

2007年01月17日 | 死者の書の旅
第17章、二上山の山越しの阿弥陀幻像。
郎女が二上山の男嶽と女嶽の間に尊者を観想する場面。
尊者は大津皇子のようにまた阿弥陀のようにみえた。
作者は”山越阿弥陀図”を見て、小説のこの場面を着想したと思われる。
”山越阿弥陀図”は中世あたりから、臨終のときに枕元で図屏風を見て観想しながら浄土に旅立てる道具として貴族社会で使われた慣例があった。

「男嶽と女嶽との間になだれをなした大きな曲線(タワ)が、又次第に両方へ聳(ソソ)って行つてゐる、此二つの峰の間の広い空際(ソラギワ)。薄れかゝつた茜の雲が、急に輝き出して、白銀の炎をあげて来る。山の間に充満して居た夕闇は、光りに照されて、紫だつて動きはじめた。
さうして暫らくは、外に動くものゝない明るさ。山の空は、唯白々として、照り出されて居た。
肌 肩 脇 胸 豐かな姿が、山の尾上の松原の上に現れた。併し、俤に見つゞけた其顏ばかりは、ほの暗かつた。
今すこし著(シル)く み姿顯したまへ――。
郎女の口よりも、皮膚をつんざいて、あげた叫びである。山腹の紫は、雲となつてたなびき、次第々々に下がる樣に見えた。・・・」


(写真は禅林寺 山越阿弥陀図)

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