飛鳥への旅

飛鳥万葉を軸に、
古代から近代へと時空を越えた旅をします。
「リンクメニュー」(分類別目次)機能付。

中将姫説話コレクション9:評論 その他

2009年12月10日 | 中将姫伝説を訪ねて

田中貴子著「聖なる女 斎宮・女神・中将姫」(人文書院、1996年)

 「奈良宇陀郡にある青連寺、ここは中将姫ゆかりの寺で、この中将湯の発売元である津村順天堂創業者が大檀那となっている。
ここ青連寺は姫が捨てられた場所で、最初に身を寄せた藤村家に、かくまってくれたお礼として秘伝の薬の処方を伝えたという。この藤村家が津村重舎の母の実家である。その家伝の秘薬をもとに中将湯を開発したのである。・・・

藤村家が婦人病の名前として中将姫を選んだのは、中将姫の物語じたいに「女の病」を連想させるような要素が潜んでいたからではないかと思う。・・・

また岐阜県の「中将姫誓願桜」について、
恵美押勝の乱の際に当麻から観音の霊験を慕って避難してきた中将姫が病にかかり、観音の力によって平癒したため、「男女の下の病、難産の患」を救おうと植えた桜と伝えられている。・・・」

 中将姫は血の病を克服した「聖なる女」であるとしている。


梅澤恵美子著「竹取物語と中将姫伝説」(三一書房、1998年)

 「権力掌握を狙う藤原氏は、持統天皇とくみし、アマテラス神話の天孫降臨を創作することで、あまたいた天武の後継者である皇子達から、皇位継承権を剥奪し、しかもその命までも奪っていった。・・本来の大和朝廷の神・ニギハヤヒは姿を消された。・・神をも恐れぬこの藤原不比等と持統の所業は、新しい神を黙認してしまった者達に、この後消えることのない恐怖を与えていくのである。」
 「かぐや姫の生涯は、現世においてただひたすら、人を遠ざけるためだけの生涯であった。中将姫もまた、かぐや姫同様、人の世から離れることでしか、現世での生きる道は見出せなかった。
 「竹取物語」の作者は、この藤原氏の娘の生涯を見て、この物語を書いたのであろう。中将姫の因果応報に苦しむ姿を逆転して、罰を与える側としてかぐや姫を創り出したのである。・・」

 藤原氏への悔恨が新しい神を創作したことによるものだとしている点、藤原氏悔恨の娘として中将姫と竹取物語を逆説的に捉えた点、が注目される。


阿部泰郎著「湯屋の皇后 中世の性と聖なるもの」(名古屋大学出版会、1998年)

 「序章 越境する女人-『死者の書』と中将姫物語をめぐりて・・・
かの女のまことの名前は、ついに知られることは無かった。ただ、南家郎女とばかり、その作品世界のなかで仮の称を与えられている女は、或る境界を越える、決定的な一歩を踏み出す。
かの女は、寺の大門の敷居を越え、その境内に這入った。・・・
 折口信夫の小説「死者の書」は、この一瞬をめぐって、前後数節にわたり複雑に展開されている。・・・
 「死者の書」において、作品を生成していく動機というべき”越境”、ひいては”結界破り”のしわざとは、何であったか。・・・・
”女人禁制”とは、それを誘いだし、行動をいながす壮大なしかけかと思われるばかりである。・・・」

 女人禁制の結界を破る行為、聖と俗の間に立って何ものかに突き動かされる、それは<聖なるもの>の力である、と論じている。 <聖なるもの>は性による疎隔や媒介の亀裂に垣間見られるいう。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿