ぬばたまの夜さり来れば巻向(まきむく)の
川音(かはと)高しも嵐かも疾(と)き
=巻7-1101 柿本人麿歌集=
暗闇の夜がやってくると、巻向川の川音が高くなった。嵐が来ているのだろうか。という意味。
「巻向」は、奈良県桜井市の穴師(あなし)・巻向を中心とした一帯。「巻向川」は、巻向山の主峰「弓月が岳」と穴師山の間から車谷の村落に沿って西に流れ下る小さな谷川である。
「ぬばたまの」は夜にかかる枕詞で真っ黒という意。
人麻呂が妻の家で一夜を明かした時の歌なのだろうか。
電灯のない時代、ぬばたまの漆黒の闇があたりを包み、川音だけが谷間に響いている。
闇の中で川音に耳をそばだたせている人麻呂。
「巻向川の川音が昼間に比べて高くなってきている。上流の巻向山は今はもう嵐かもしれん。これは激しいぞ!」
漆黒の闇に、響き流れる川の音というのが実に印象深く、また近くの川音から遠くの山の嵐を想像するという遠近感のある歌で、私の大好きな歌のひとつである。
この万葉歌碑は山の辺の道、桜井穴師の里の巻向川の近くに建っている。
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