松谷創一郎ジャーナリスト
YAHOOニュース(個人)5/15(月)
4つのポイント
5月14日、故・ジャニー喜多川前社長による性加害問題について、ジャニーズ事務所の藤島ジュリーK.社長が動画で声明を出した。記者会見を望む声も多かったが、ジャニーズ事務所は先代から経営陣がいっさい公式の場に顔を出すことはなかったので、ジュリー社長が顔を出したこの声明はかなり異例のことだ。
その内容は、動画で1分ほどの謝罪をし、その他の疑問については書面で回答するという形式だった。それらは、同社のオフィシャルサイトに掲載されている。筆者も先月4月30日に、関係者を通じてジャニーズ事務所に質問しており、この回答はそれらも含むさまざまなメディアから寄せられたものを集合させたものである(筆者の質問内容はこちら)。
そうしたジュリー社長の声明だが、そのポイントは4つにまとめられるだろうか。
性加害の事実を認めるかどうか
2004年の『週刊文春』裁判結審後の対応
第三者委員会を設置しない理由
話さなかったこと
以下、この4点について考えていく。
被害者が限定される“難しさ”
まず性加害の事実認定についてだが、これについては「『事実』と認める、認めないと一言で言い切ることは容易ではな」い、と明言を避けている。文脈的にも、認めているようにも読めるし、認めていないようにも読める。
そこからは、集団訴訟への発展を避けようとするジャニーズ事務所の苦しい立場も感じられるが、本件特有の“難しさ”もかいま見える。というのは、カウアン・オカモト氏をはじめとした多くの被害を認めてしまえば、同社所属の現役タレントも被害を受けている可能性を認めることとなり、結果的に二次被害を引き起こしてしまうことに繋がりかねないからだ。
つまりこの曖昧なスタンスは、被害者を救済するのと同時に、現役タレントを保護することのバランスを取ろうとして生じている。「憶測による誹謗中傷等の二次被害についても慎重に配慮しなければならない」と述べているのもそのためだ。
筆者が4月18日の記事「ジャニー喜多川氏『性加害問題』の課題」で指摘したのも、まさにこのことだった。それはジャニーズ事務所だけでなく、ファンの多くも不安視していることでもある。
現役タレントの保護のために被害者の救済を無視することはできず、しかし、被害者の救済のために現役タレントを見捨てるわけにもいかない──被害者が限定されている本件には、常にこの“難しさ”がつきまとう。
被害は恥ではなく、加害者が悪い
そのときひとつのヒントとなるのは、この問題の調査を求める署名を集めた「PENLIGHT ジャニーズ事務所の性加害を明らかにする会」が5月11日に行なった記者会見にあるかもしれない。
被害者の救済と現役タレントの保護をどう両立すればいいのか、なにか妙案はあるか?──会見での筆者の質問に対し、発起人のひとりである高田あすみさん(仮名)はこう話した。
「二次被害を引き起こすのは社会全体の人権感覚の問題です。被害に遭ったのは恥ずかしいことではなく、加害者が悪いと捉えられる社会を作っていく必要がある」
それは、今回の問題に新たに一筋の道を照らす考え方だろう。被害者を蔑む視点を社会が許容するからこそ被害者が沈黙を余儀なくされ、そしてまた社会で加害行為が繰り返される──それを断ち切ることこそが、現役のジャニーズタレントを保護するうえで重要であるという視点だ。
一方、TBS以外の民放テレビ局がこの問題の報道に消極的な理由は、「現役タレントの保護」だと関係者から耳にした。だが、当然のことながらその姿勢は声をあげた被害者を見捨てることを意味する。
そもそも報道機関の重要な役割のひとつは、社会における議題設定(アジェンダ・セッティング)だが、現状は「現役タレントの保護」をタテマエ的な言い訳に使っているようにも見える。必要なのは、被害者の訴えを受け止めて、被害者への偏見を緩和するための議論を促すことだ。現状、TBSを除く民放4局はその立場を放棄していると断じざるをえない。
白波瀬傑副社長の責任
次に2004年に『週刊文春』に対する名誉毀損裁判で、ジャニー喜多川氏の性加害(裁判では「セクハラ」)が認定された以降のジャニーズ事務所の対応についてだ。
当時すでに幹部だったジュリー社長は「知らなかった」と述べ、ジャニー喜多川氏と姉のメリー喜多川氏のふたりが会社運営をほぼ担ってきたと話している。これは苦しい言い訳のように見えるが、喜多川姉弟の独裁体制は生前からよく知られていたことでもあった。そして、ジュリー社長がいまになってその状況を「異常」と捉えているあたりにも強い悔恨が見える。
ただし、その場合にキーマンとなるのはジュリー社長だけではない。長らく広報を担当してきた白波瀬傑副社長も重要人物だ。現在70代前半と見られる白波瀬氏は、メディア側には広く知られた存在だ。ジャニーズ事務所は、タレント出演の番組や映画などコンテンツを盾にしてメディア側を操縦してきた。
たとえばジャニー氏は、テレビ朝日『ミュージックステーション』の皇達也プロデューサー(故人)に対し、「(競合グループを)出したらいいじゃない。ただ、うちのタレントと被るから、うちは出さない方がいいね」とタレント引き上げをちらつかせたという(『週刊新潮』2019年7月25日号)。また2019年7月には、元SMAPの3人の民放テレビ番組出演に圧力をかけた疑いがあるとして、公正取引委員会から「注意」されたことも記憶に新しい。
こうした水面下のさまざま差配を指揮してきたのは、広報担当の白波瀬副社長と見られる。2004年の『文春』裁判の結審の際も、民放テレビ局をはじめ多くのメディアが追従することはなかった。そうした状況において広報を担当していたのが白波瀬氏だ。そんな彼が、裁判結果=ジャニー氏の性加害問題を知らなかったとは考えにくい。
ジュリー社長は、当時ジャニー氏が「加害を強く否定していた」と説明するが、その一方で白波瀬氏が報道になんらかの関与をした疑いはある。白波瀬副社長の責任は確実に追及されなければならない。
第三者委員会を望まない理由
3つ目は、第三者委員会を設置しない理由だ。当初から筆者も含め多くのひとびとが望むのはこの対応だが、今回もそれは否定された。
ジュリー社長は複数の理由をあげているが、そのひとつは「調査段階で、本件でのヒアリングを望まない方々も対象となる可能性が大きい」ことだ。そこで想定されている「望まない方々」とは、おそらく所属タレントたちだ。
ここまでの筆者の取材で見えてきているのは、所属する現役タレントたちの多くが第三者委員会の設置に反対していることだ。ただしタレント同士でも温度差があり、調査を望む者もいるという。この問題の複雑さは、やはりここにある。
だが、そもそも第三者委員会は調査内容をすべて公開することを前提とするわけではない。調査結果を公開するかどうかの判断も第三者委員会に委ねなければならない。そこでは実態解明を目的としながらも、プライバシーに配慮することは当然だ。なにより、現役であるがゆえに被害を押し殺し、そのうえで精神的なケアや補償を受けられないことは不条理だ。
補助線をひとつ引くならば、たとえば2012年にイギリスの人気司会者だったジミー・サヴィルが死後に多くの性加害を行なっていたことが発覚した事件が参考になるだろう。サヴィルを番組で起用していた公共放送・BBCは、216ページにわたる長大な調査結果を発表した(”THE DAME JANET SMITH REVIEW”2016年/PDF)。これは、BBCの施設内で性加害が行われていたためだ。そこでは時系列かつ人物別に被害実態が明らかにされており、当然のことながらプライバシーも保護されている。
こうした前例がありながらもジャニーズ事務所がかたくなに第三者委員会を拒むのであれば、それはタレントの姿勢以外にも「隠したいなにか」があると邪推されても仕方がない。
たとえば『週刊文春』は、ジャニーズ事務所のスタッフからジャニーズJr.の少年たちを全日空ホテルに送り届けていた証言を得ている(2023年4月27日号)。それが本当に知らないだけか、あるいは「未必の故意」かはわからないが、そうしたことを解明するためにも第三者委員会は必要だ。
そしてもちろん、ジャニー氏による性加害の実態解明は、単にジャニーズ事務所のためだけに必要なわけでない。それは日本の未来のために必要だ。日本社会が本件を教訓としなければならないからだ。
「ジャニーズ利権」にすがるテレビ局
最後に、今回のジュリー氏が話さなかったことについてだ。それはジャニーズ事務所のメディアコントロールだ。前述したように、ジャニーズはコンテンツを盾に巧みにメディアを操縦してきた。それを指揮してきたのが、白波瀬副社長であることにも触れた。
今回の件でも、日本テレビ・テレビ朝日・フジテレビの民放3社はいまも積極的にこの問題を報じようとしない。それは、やはり長いあいだジャニーズ事務所とズブズブの関係にあるからだ。筆者はこの問題が騒がれだした3月終わりの段階で、「民放が官邸や政府よりもずっと怖れているのは間違いなくジャニーズ事務所だ」と書いたが、その後の展開は残念なことにその通りになった(『朝日新聞GLOBE+』2023年3月30日)。
たしかに、確実に数字が取れるジャニーズのコンテンツは、斜陽のテレビ局にとっては決して失いたくないものに違いない。だが、この「ジャニーズ利権」を保持するために、TBS以外の民放局は報道機関としてのプライドを捨てた状態にある。
たとえば定例会見でテレビ朝日の篠塚浩社長は「今後の推移を見守りたい」と発言し、フジテレビの港浩一社長は「事実関係がよく分からないのでコメントは差し控える」とそれぞれ述べた。『報道ステーション』や『FNN Live News α』というニュース番組があるにもかかわらず、自分たちで調査して報道する気はさらさらない様子だ。それは、「報道機関としてのオワコン宣言」であるのと同時に、「ジャニーズ事務所の2軍宣言」でもある。
筆者がジャニーズ事務所に望んだのは、「自動忖度機」に成り下がったメディアの“呪い”を解くことでもあった。
ジャニーズタレントがレギュラーのテレビ朝日『ミュージックステーション』には、いまだに競合グループが出演できない状況が続いている。Da-iCE、JO1、INI、BE:FIRSTなどがそうだ。このうちJO1とBE:FIRSTは『紅白歌合戦』に出場しており、Da-iCEは日本レコード大賞を受賞している。さらにJO1とINIには元ジャニーズJr.のメンバーが含まれている(「ジャニーズ忖度がなくなる日」2023年2月23日)。
ジャニーズは、このようにコンテンツを盾にして報道を左右してきた。これがメディアコントロールだ。
性加害の温床となったメディア支配
そして、こうしたメディア支配こそがジャニー氏が性加害を続けた温床にもなった。
2004年に『文春』裁判が結審したときに追及がなされなかったのも、このズブズブの関係があったからだ。また、この構造的な関係によって間接的に加害行為へ加担していることを自覚しているからこそ、テレビ朝日とフジテレビは現在も報道に及び腰になっていると推察される(そうでないならば、今夜の番組でちゃんと説明すれば良い)。
筆者がジュリー社長に強く望むのは、先代の社長・副社長がテレビ局にかけた“呪い”を解くことだ。それは先月末に筆者が投げた質問にも含まれていたが、残念なことに今回はその回答は得られなかった。
ジャニーズ事務所のコンテンツを担保としたメディア支配が続き、それによって追及を逃れたジャニー氏が再度加害行為を繰り返していた可能性について、社会はより重大な関心を向けるべきだ。この問題は、ジャニー氏の単独行動としてではなく、構造的に読み解かなければなにも解決には進まない。しかも、メディア支配はいまも続いている。
われわれ報道する側は、芸能プロダクションに嫌がらせをしたいから批判するのではない。問題があればそれを指摘して改善を促し、社会をより良くすることが目的だ。しかし、それが機能不全になったからこそ、ジャニー氏は加害行為を繰り返し、ジャニーズ事務所はいま地獄を見ており、テレビ局もその泥舟に乗って膝まで水に浸かっている。
もうそろそろ目を覚ますときではないか。
問題は始まったばかり
このジャニー喜多川氏の性加害問題は、まだなにも解決にいたっていない。カウアン・オカモト氏とジャニーズ事務所は面談をしたものの、なんらかの合意にいたったわけではない。
さらにその後、『週刊文春』でふたりが実名・顔出しで被害を訴えた。「Me Too」は今後も続く可能性もある。
ジャニー氏の加害行為の全容はまだ見えず、はじめて報道された1960年代から再調査する必要もあるだろう。過去に声をあげながらも、「芸能ゴシップ」として軽視されてきたひとびとに目を向けることも必要だ。
ジュリー社長の声明も、これが始まりであって決して最後であってはならない。この問題が終わるのは、まだまだ先だ──。
松谷創一郎 ジャーナリスト
まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。
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櫻井翔の日テレnews zeroは?…「news23」ジャニーズ性加害問題を放送で視聴者から声あがる(一部抜粋)
日刊ゲンダイ2023/05/15
「news23」(TBS系)が異例の“自己批判”だ。
5月11日の放送で、故・ジャニー喜多川氏(2019年死去)が行っていたとされる性加害問題について、メインキャスターの小川彩佳(38)が「少なくとも私達の番組ではお伝えしてこなかった」と触れ、約10分間にわたって同疑惑を報じた。
3月に放送された英BBCによる特集番組以来、ジャニー喜多川氏の性加害問題についてはNHKが扱ったほか、民放にもわずかながら報道する動きがあった。そんな中、夜のニュース番組が大々的に報じるいう、大きな“突破口”が開いたとも言える動きがあった以上、他の民放の夜のニュース番組がこぞって疑惑を報じれば、事態は大きく動く可能性がある。
一方では、この動きに乗り遅れそうな番組がある。「news zero」(日本テレビ系)だ。同番組は「news23」と同時間帯(午後11時~)の放送。フリーの有働由美子アナウンサー(54)がメインキャスターを努めているほか、各曜日ごとに担当キャスターを置く布陣。そして月曜日のキャスターは……「嵐」の櫻井翔(41)なのだ。
櫻井本人が所属するジャニーズ事務所のかつての代表者の疑惑を取り上げるとなれば、番組側が及び腰になりそうなもの。現にツイッターには「news23」の報道を受け、《報道としての過ちをしっかりと認める姿勢が見られて安心した。信頼できると思った。櫻井キャスターのいる日テレは?》といった声があがり始めている。
古い記事ですが参考までに。(こんな古い事件なのでした)
ジャニー喜多川社長の美談を垂れ流し性的虐待問題を一切報じないマスコミ!元ジュニアが法廷で証言、最高裁でも確定してるのに
リテラ2019.07.11
6月9日にジャニーズ事務所の代表取締役社長であるジャニー喜多川氏が逝去し、ワイドショーのみならず『報道ステーション』(テレビ朝日)や『news23』(TBS)などの報道番組まで、ありとあらゆるメディアが横並びで追悼報道を展開している。
ジャニー社長のショービジネス、芸能・エンタテインメント界での功績、スターを多数輩出した卓越した審美眼、タレントたちとの親子のような強い絆……。湯水のようにジャニー社長賛美報道が繰り広げられているが、しかし一方で、メディアが一切触れていないことがある。ジャニー社長の性的虐待という問題だ。
実はかなり古い時代から、ジャニー社長のタレントやジュニアに対する性的虐待の告発は数多く存在した。なかでも衝撃的だったのが、1988年に元フォーリーブスの北公次が出した告発本『光GENJIへ』(データハウス)だろう。北はこのなかでジャニー社長からの性的虐待を赤裸々に記しているが、その後も元ジャニーズの中谷良による『ジャニーズの逆襲』(データハウス/1989年)、平本淳也の『ジャニーズのすべて 少年愛の館』(鹿砦社/1996年)、豊川誕の『ひとりぼっちの旅立ち』(鹿砦社/1997年)、光GENJIの候補メンバーだった木山将吾の『Smapへ――そして、すべてのジャニーズタレントへ』(鹿砦社/2005年)などの告発本が刊行され、いずれもジャニー社長からの性的虐待を訴えたのだ。
多くのマスコミは、ジャニーズタブーのため、これら告発本やその内容はほぼ黙殺、まともな検証がなされていないため、現在ではジャニー社長の性的虐待を“都市伝説”のように思っている向きも多いだろう。しかし、ジャニー社長のタレントたちへの性的虐待は都市伝説などではないばかりか、最高裁でも認定された事実なのだ。
その裁判のきっかけは、1999年に「週刊文春」(文藝春秋)がジャニーズ事務所の数々の問題を告発するキャンペーン記事を掲載したことだった。キャンペーンは10回以上に及び、そのなかでも衝撃的だったのがジャニー社長の性的虐待や児童虐待だった。
記事は複数の元ジュニアやジャニーズOBの証言をもとに、ジャニー社長の性的虐待を赤裸々に告発するものだったが、これに対し同年11月、ジャニーズ事務所は名誉毀損で「週刊文春」を提訴。そして裁判でジャニー社長の性的虐待の有無が争われることとなった。その裁判の過程で「週刊文春」側証人として元ジャニーズJr.の2人が出廷、裁判の場で、性的虐待の実態を赤裸々に語ったのだ。
ジャニーズタブーのためマスコミはその裁判の動向はほとんど報じていなかったことに加え、元ジュニアの証言は性被害というセンシティブな問題であることから非公開で行われたため、まったく外部に伝わっていなかったが、月刊誌『噂の真相』(2002年2月号)が、その証言内容をつかみ詳細を報じている。
記事によれば、証言に立った元ジュニアは2人とも未成年。2001年7月25日大阪地裁のある法廷でのことだという。証言者のひとりであるA君は仕事で夜遅くなり、電車がなくなったとき、他のジュニア数人と“合宿所”と呼ばれるジャニー社長の自宅である六本木の高級マンションに宿泊した。そんななかジャニー社長から性的虐待を受けたのだという。
法廷で元ジュニアが証言したジャニー喜多川社長による性的虐待
A君の証言によると、「合宿所で寝ていたらジャニーさんが横に来て、足をマッサージし始めた。普通に触ってきた。ちょっとイヤだった」と言い、その後、「だんだんエスカレート」し、性的な行為をされたという。これ以上は生々しいため具体的な記述は控えるが、もっと直接的な性行為などの詳細な証言もあったという。
もう一人、SMAPやV6のバックで踊ったり、CMやジュニアのコンサートにも出た経歴があるというB君も、寝ているときにジャニー社長が布団の中に入ってきて性的な行為をされたという証言をしている。
さらに、A君もB君もそろって、ジュニア仲間や先輩らの間で、こんなふうに言われていたと明かしている。
「断ればテレビや舞台に出ることができないらしい」
「ジャニーさんからそういう行為を受けたら、いい仕事がもらえる。逆に受けなかったり拒否するとデビューできない」
ジャニー社長の行為は性的虐待だけでなく、その立場や力関係を背景にしたパワハラでもあったということだろう。しかも、それを未成年者に対しておこなっていた。これら被害者証言の後には、ジャニー社長の証言が控えており、ジャニー社長もその法廷にいたという。
そして、ジャニー社長は自身の証言として「(被害者少年たちが)嘘をついている」と反論していたというが、その後の裁判の展開はむしろ、ジャニー社長のセクハラ行為を認定するものになった。
高裁でも確定してもジャニー社長のセクハラを一切報じないマスコミ
こうしてジャニー社長の性的虐待が裁判の場で告発されたのだが、2002年3月の一審判決は「セクハラ行為の重要部分が真実だと証明されていない」という不可解な理由で「週刊文春」側に880万円の損害賠償を求めるものだった。しかし、これに対し「週刊文春」側が不服とし控訴、2003年7月の高裁ではジャニー社長のセクハラ行為が認定されるという逆転判決が出され、損害賠償も120万円と大幅に減額。判決は「逆らえばデビューできなくなる拒絶不能な状態に乗じ、社長がセクハラしている」との記載について、「被害者の少年たちの証言は具体的で詳細なのに、事務所側は具体的に反論していない」と指摘し、「セクハラに関する記事の重要部分は真実」と判断した。そして、ジャニーズ側が不服として最高裁に上告したが、2004年2月に上告は棄却、これで最高裁においてもジャニー社長のセクハラ行為が確定されたのだ。
この衝撃的な裁判は、当時、海外メディアでも大きく報じられたが、しかし国内マスコミはほぼ黙殺。ジャニー社長の行為のみならず、裁判で確定したセクハラ問題までジャニーズタブーで沈黙する日本メディアの姿勢も、それ以上に大問題だろう。
また、一部で取り上げられたとしても、当時はジャニー社長の性的指向ばかりがセンセーショナルにクローズアップされるかたちとなっていた面もあるが、ジャニー社長の行為の本質は、芸能人生の命運を握る権力者であることを背景にしたパワハラをともなう性的虐待、しかも未成年への虐待だ。
しかし当時も、そして#MeToo運動の拡大もあり世界中でセクハラ・パワハラに対する問題意識が高まっている現在においても、ジャニー社長の負の問題について、マスコミは口をつぐんだままだ。
なかには“十年以上も前の過去のこと”などと嘯く人もいるかもしれない。だが、世界的に見ても、#MeTooの発端となった映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインへの告発は十年以上前や数十年も前の行為も含まれており、また大きな衝撃をもって報じられたカトリック教会の莫大な人数の神父による性的虐待・隠蔽もまた、過去に遡って検証されている問題だ。
ジャニー社長が歴史に残るプロデューサーであることは否定しないが、であればこそ、正の面だけでなく負の側面も検証されてしかるべきだろう。実際、イギリスの公共放送局・BBCは、ジャニー社長の訃報を伝える記事のなかで、その功績だけではなく性的虐待問題にも言及している。しかし、上述の通り、国内メディアはジャニー社長賛美一色。『報道ステーション』や『news23』のような報道番組までもが横並びの賛美報道しかできないのは異常だ。
いまメディアで喧伝されているジャニー社長の功績とされる部分の多くもまた、男性グループを実質的に独占してきたことなど、こうしたジャニーズ事務所の強権的なマスコミ支配によるところが大きいことも付記しておきたい。
ジャニーズタブーに縛られたマスコミだが、ジャニー社長が逝去したいまこそ、こうした性的虐待、パワハラの実態を再び検証すべきではないのか。
(編集部)
また長くなってしまいましたのでこれにて。