「東京新聞」2023年5月23日
コロナ禍や物価高で家計が厳しくなる中、子どもたちの教育格差が広がっている。総務省の2022年の家計調査によると、塾代など「補習教育」の費用がコロナ前の19年と比べ、年収が多い世帯では増加したのに対し、比較的少ない世帯では減少する傾向が出ていた。物価の高騰が収まらない中で、識者らはさらに格差が拡大することを懸念する。 (並木智子)
家計調査 世帯の収入や支出、貯蓄、負債を調べる総務省の全国調査で、特に重要な統計とされる「基幹統計」の一つ。支出は食料、住居、光熱水道、教育、保健医療といった項目に分かれる。収入などの違いによって、支出額がどう異なるかが分かる。消費や景気の動きを捉えるのに使われ、経済政策の立案の参考にもされる。
◆医師目指す息子、シングルマザーの思い
「覚悟してひとり親になったんだから、限界まで働いてなんとか頑張りたい」。高校3年生の長男(17)と同1年生の次男(15)と都内で暮らすシングルマザー(45)は話した。女性は管理栄養士の資格を持ち正社員として働くが、年収は400万円ほど。長男は成績優秀で無料の学習会に参加したり、自分で参考書や模試を活用したりしながら医師を目指すが、私立大への進学となれば学費は高額になる。
次男の進路も考えると経済的な不安がある。女性は高騰する光熱費を少しでも抑えようと、ガスの使用量を減らすなど調理の方法を工夫。「子どもがやりたいことは、できる範囲でかなえてあげたい」と話す。
困窮家庭の子どもたちに無料学習会を開く「認定NPO法人キッズドア」が22年11月、支援する家庭に実施した調査によると、「家計維持のために出費を減らしている項目(複数回答)」は、「教育費」が25%に上った。「物価上昇による子どもの学びや生活の変化(同)」では、「参考書や本の購入を減らした」が37%、「塾や習い事をやめた」は18%に及んだ。
◆大学進学から就職に切り替える生徒も
総務省の家計調査でも、22年の世帯年収別(2人以上の世帯)の教育支出は、年収200万以上550万円未満の世帯で学習塾などの「補習教育」が19年比で軒並み減少した。一方で年収1250万以上1500万円未満では60%も増え、年収1500万円以上は44%伸びた。
渡辺由美子理事長は「傾向として年収1000万円以上の世帯は競うように教育にお金をかけているが、物価高で500万円前後の家庭も食費などがかさみ教育費を削っている」と指摘する。無料学習会も今春は定員に達するスピードが昨年より格段に速かったという。
進路を大学進学から就職に変更する高校生も少なくないといい、渡辺氏は「教育費の削減は最後の手段。そこに手を付けざるを得ない家庭が増えている。本人だけでなく日本全体にとっても損失だ」と訴える。
◆体験学習の差はより大きく
教育格差は学力だけの問題にとどまらず、習い事を含めた体験学習にも影響が及んでいる。
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの小学生の保護者を対象にした調査によると、物価高騰の影響で、習い事に加えキャンプや動物園に行くなどの体験機会が「減った」と回答した保護者の割合は、世帯年収300万円未満が30.8%で同600万円以上の2倍に上った。体験活動への年間支出額は、年収300万円未満では3万8363円だったのに対し、同600万円以上は10万6674円と3倍近い差があった。
調査に携わった三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林庸平氏は「学習塾などの補習教育以上に、音楽やスポーツなど習い事の体験学習の差は大きい」と指摘。体験学習の不足が、やる気や自己肯定感といった学力以外の「非認知能力」に影響することを懸念する。
みずほリサーチ&テクノロジーズの中信達彦氏は、「物価の高騰は続きそうで、今後も教育支出の格差は拡大する可能性がある。中小企業や非正規雇用も含め幅広い層での賃上げが必要だ」と話している。
北広島にできた日ハム球場を見学してきた。