「東京新聞」社説 2022年10月12日
国連の障害者権利委員会が、日本の障害者政策を初めて審査し、精神科医療や障害者教育などについて改善を勧告した。
審査は日本が二〇一四年に批准した、障害によるあらゆる差別を禁じた障害者権利条約に基づいて行われた。勧告に法的強制力はないが、政府は重く受け止め、改善に向けた方策を講じるべきだ。
権利委は日本の障害者政策が条約の趣旨に合致しているか否かを審査し、総括所見を公表した。
所見冒頭で懸念を指摘したのは日本の政策が、健常者が障害者に「やってあげる」というパターナリズム(父権主義)に偏っているという点だ。
障害者は平等に扱われる権利を持ち、社会はそれを保障する義務があるとの条約の趣旨に反する父権主義は共生の理念と矛盾し、収容や分離につながりかねない。
所見が紙幅を割いたのは精神科医療と障害者教育の問題点だ。
日本の精神科病床数は経済協力開発機構(OECD)加盟国全体の四割弱を占め、平均入院日数も突出している。政府は〇四年、入院医療から地域生活への転換に向けた改革を打ち出したが、成果は乏しい。主な原因は医療保護入院など強制入院の制度にある。
所見は強制入院を障害を理由とする差別と断定し、制度を認める全ての法律の廃止を要請した。大胆な提案のようでもあるが、先進国ではすでに在宅医療が主流であることを想起すべきだろう。
患者が病院内での虐待や非人道的な扱いを外部に報告しやすい仕組みの創設や、加害者の刑事処分を見逃さないことも勧告した。
障害者教育についても、特別支援教育を分離教育と懸念し、中止に向けて障害のある子とない子が共に学べる「インクルーシブ(包摂)教育」に関する国の行動計画を採択するよう求めた。
政府は通常教育と特別支援教育の選択は本人と保護者の意思によるとするが、教育委員会が特別支援教育を強く勧めた例は多い。永岡桂子文部科学相も「特別支援教育を中止する考えはない」と述べた。勧告を一蹴していいのか。
権利委のヨナス・ラスカス副委員長は「分離教育は(大人になっても)分断された社会を生む」と指摘する。傾聴に値する言葉だ。障害者を締め出す社会は弱く、もろい。政府はいま一度、条約の趣旨に立ち返るべきである。
園のようす。
桜の葉は殆ど落ちてしまいました。
ツタも色づき始めました。
巨大毒キノコ。